表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰か異世界の常識を教えて!  作者: 三六九狐猫
第八章 想いを形に
75/123

第74話 兄は、弟の為に

 

 バッグの中にある、この桜の花弁。


 兄さんの指示によって、咲桜に上げる栞の材料を入手した訳だが、一体──



「兄さん、なんで分かったの?未来予知なんて出来ないよね?」



 兄が使える物は、あくまでも読心術だ。決して未来予知などではない。なら、何故…。



「あぁ、その通り。俺の専門は読心術だ。だから、読心術を使った」



「…どういうこと?」



 読心術は、その名の通り心を読む術だ。それ以上でもそれ以下でもない。


 よって、おかしいのだ。兄さんが、数秒後に起きる事象を読むのは。


 心中、そのような懐疑の念を抱いていると、見かねた兄さんは「あのな」と説明を始める。



「そこまで分かってるんだったら、考えてみろ。読心術といっても、誰が()()()()()()()()()なんて決めたんだ?」



「あっ…」



 その一言で、全てが分かった。それと同時に、俺は兄さんに対して多少なりとも恐怖を覚えた。


 要は、先程の兄さんの未来予知。そのカラクリは、()もしくは()()()()()()()()、ということだ。


 自然に心という概念があるのかは定かではないが、このバッグの中を見る限り、多少なりとも(よちょう)は読めるようだ。


 人間が自然の中に生息している以上、自然の影響を受けるが、この兄さんの読心術があれば、どうなるだろうか。


 自然は、人間の生活を豊かにする。その反面、大災害をもたらす事もある。


 兄さんの読心術が、いや、兄さんの心が、正常であるなら良い。


 その能力は、大災害をいち早く察知し、被害を最小限に抑えることが出来るようになるだろう。


 しかし、仮にだ。カリステアに、悪意を持った者が現れたら、どうなるだろう?


 カリステアで、兄さんの読心術を知らないものはいない。


 その噂が広まり、もし、悪意を持った、尚且つ『洗脳』できる者が現れれば──。



「イュタベラ、そういうとこだぞ」



「むぐっ!?」



 想像がそこまでに至った途端、兄さんの両手が俺の頬を挟む。しかし力が強い。潰れる…


 そして兄さんは手を離し、その両手を腰に当てる。これは、説教をする時の合図だ。



「お前は想像力が豊か過ぎる。妄想癖はいい加減にしろ。そうやって根も葉もない事考えたって仕方ないだろう。もう少し考えないようにすることを考えろ。難しく考えるのは体に毒だ」



「兄さん、それは難しすぎるんじゃ…?」



「知らん」



「無責任な」



 考えないようにすることを考える、か。


 確かに、俺自身自覚はある。


 いつも根拠の無い想像、いや、妄想をしては、一人で悩んで立ち止まっている。


 それが原因で、臆病になっているのだ。


 常に現状維持を望み、変化の先にある自分への不利益に恐怖する。


 ショッピングモールでも、兄さんに言われた。


 勇気を出せ、と。


 まずはやってみろ、と。


 兄さんは確かに、見た目は良いが実は金遣いが荒かったり、実は虫が苦手だったり、食わず嫌いだったり──



「おい、それは関係ないだろ」



 でも、俺は知ってる。


 兄さんの助言は、必ず俺達にとって利益をもたらしてくれる。


 それを知っているからだろうか?


 少し、この臆病という病を治そうと思えたのは。


 これを治す為の、最初の勇気。


 この瞬間だけかもしれないが、勇気を出す勇気が、少し湧いてきた気がする。


 そして、俺が、その勇気を振り絞って、すべき事は──



「咲桜からの、返事──」



 咲桜は、俺が日本に来てからずっと、俺の面倒を見てくれたのだ。


 この世界の常識を、無知だった俺を、『誰か、この世界の常識を教えてくれ!』と、絶えず叫ぶ俺の心を、咲桜という存在一人だけで、救ってくれた。



 ──こんなの、好きになるに決まってるだろ?



 この恋が叶わなくてもいい。いや、叶わない事は分かっている。


 でも、俺はこれ以上、咲桜に迷惑をかけたくない。


 ならば、この曖昧な距離感を、取り除かなければ。



「なるほどな。まぁ頑張れよ。俺の弟な訳だから、顔はいい。自信持て」



「だから、心読むのやめてって」



 にやり、と効果音がしそうな程の笑みを浮かべる兄さん。


 俺の隣で空気と化す行飛は置いといて、兄さんの隣のヘレナさんも、柔らかい笑みを浮かべている。



「──よし、まずは栞を作ってからだ」



 拳を握りしめ、自分に言い聞かせるように、そう言った。



「まぁ、今回は俺の助言だったんだが、ヘレナさんは正真正銘少し先の未来が見えるから、宜しくな」



「最後にぶっ込んでくるのやめて?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ