第71話 ナゼここに異世界人
ワイガー・カリステアが日本にいる。これは本来驚くべき事なのだが──
「父さんと母さん、ミロットにシャランスティも来たんだから、兄さんも来るよな」
これで、カリステア一家全員日本入りしたわけだ。目標達成!
と、それは置いといて。
「兄さんと…彼女?さんは、日本に何しに来たの?」
とりあえず、目的を聞くことにする。
父さんと母さんは、僕をカリステアへ連れ戻すために、ミロットは俺に会うために、日本へ来た。
さて、兄さんの目的は何かな?
すると兄さんは、「もう少し驚け」と呆れたようにため息を吐くと、次いで左手の甲を俺に見せた。
その左手──薬指には、俺が日本へ来る直前までは無かったはずの、煌めく一つの指輪が。
まさか…
「父様や母様、ミロットも日本に来たんだったら、オレも来るのが普通だろ?あと見ての通り、この人とは結婚してな。イュタベラにとっては知らない人だろう。この人は──」
「どうも。わたくしは、ヘレナ・キソルテと申します。貴方が、ワイガーさんの仰っていた弟さんですね。義理の姉ということになりますが、よろしくお願いしますね」
今の短時間で物凄い情報量だったが、それよりも少し、いやかなり気になることが。
いや、兄さんは次期国王だから、俺の予想が正しくても何の問題も無いのだが──。
「あの、すみません。情報量が多くて頭の整理が追いつかないんですけど、俺の耳が正常なら、今キソルテって…」
確か、父さん(国王)の親友であり幼馴染が、プラノル・キソルテというキソルテ国の国王だったような。その人と家名が同じということは…
「はい。わたくしの父上は国王ですので、聞き覚えがあるのも納得頂けます。あ、ですが、かしこまらないでくださいね?弟なんですから、遠慮なく頼っていいんですよ?」
華奢な手を桃色の唇に当て、くすくすと微笑む国王の娘。
隣を見れば、行飛が頭に『?』を浮かべている。そうか、俺が異世界から来たこと、咲桜の家族以外には言っていなかったか。
ここで説明してもいいが、信じてくれるかは分からない。このまま放置しよう。
「予想だけど、兄さんもそろそろ結婚しないといけない歳になって、両国の国王同士仲が良いからお互いお見合いさせたら兄さんが一目惚れ──みたいな感じ?」
兄さんも、もう十九歳だ。結婚を考える歳だろう。そのくらいの歳になると決まって、貴族たちからお見合いの話が持ちかけられるらしい。
しかし、父さんは性格はアレだが、息子思いだ。知りもしない貴族の娘と兄さんを結婚させるなど、許すはずもない。
それならば、自分の知っている人を兄さんに紹介するはずだ。恐らくそれが、ヘレナさんなのだろう。
「よく分かったな。その後はとんとん拍子で話が進んで、結婚したんだ。そして今日は、ヘレナのために日本で何か買おうかと思ってな」
ヘレナさんが隣で頬を染めるが、そんなことはお構い無し。兄さんはここへ、買い物に来たようだ。
にしても、なぜよりにもよって日本へ?そして、どうやって来たんだ?
「まずどうやって来たか、って質問に答えるが、ミロットがクイックサモンの簡略化に成功してな。オレはその簡略化かれたクイックサモンを使ったわけだ。効果は確か二時間くらいか?それくらいしたら、カリステアに強制帰還だ」
「まって、さらっと心読まないで」
まったく、兄さんの『読心術』は怖い。相手の心を読む事が出来るなど、プライバシーが欠片も保護されないでは無いか。
と、それはそれとして。ミロットのやつ、どれだけ才能を開花させれば気が済むんだ?
そして、あと知りたいのはなんで日本に来たか、なんだけど、多分この思考も読まれてるな。
「人の読心術を読んで喋らずに質問するな。そんなことするのお前だけだぞ?まぁ、なんでここを選んだのかは、ミロットのお陰だな」
またミロットか。ミロットのお陰?
──あぁ、そうか、なるほど。
「その通り。ミロットが『キョウト』?の『ストラップ』だっけ?そんなのを持って来ただろう?あれ結構質が良くてな。ヘレナに贈り物をするのに最適だと思ってな。日本ってあんなのがゴロゴロあるのか?」
あるよ。
そう念じると、兄さんは顔をしかめるも、同時に驚いた。
確かに、日本の技術は素晴らしいからな。贈り物をするには丁度いい。
ということは、目的は同じか。
「──ふ〜ん?あ、目的は同じなのか。じゃあ、ここで話すのは時間の無駄だな。早速買い物するぞ!金はさっき換金したから結構ある!」
「何を売ったのかは聞かない。うん」
その兄さんの言葉で、この場で空気と化していた行飛と共に、ショッピングモール内へ入った。