第70話 もう驚かない
近場のショッピングモールにて。
午前中に学校は終わり、俺は咲桜にプレゼントを渡すことがバレないよう、『行飛からカラオケに誘われた』と言って家を出た。さて、咲桜に似合う物はあるかな?
「にしても、約束の時間なんだが…遅いな」
ショッピングモール前に待ち合わせをするはずなのだが、約束の時間からもう十分も過ぎている。
行飛のやつ、自分から言い出しておいて来ないのか?流石にそれは無いか…。
もう少し待って、十分後。
「──まだ来ない…。こうなったら電話とやらをしてみるか…?」
夏休み、高峯家と長崎へ旅行に行った際、咲桜から『携帯電話』の使い方を教えて貰った。これで俺も、日本に住む立派な現役中学生だ。
行飛の連絡先も分かっているし、電話するのも良いかもしれないが…。
「何か事情が…?てか、いきなり電話かけて迷惑しないか?う〜ん…」
やはり、もう少し待とう。一時間くらいなら待つ気になる。それ以降は知らん。
と、そう考えた直後。
「──そうなんですね〜。イュタベラにそんなとこが…あ、もうすぐですよ。おーい、イュタベラ〜!」
誰かと話す行飛の声。敬語を使っているため、真也と話しているわけでは無いだろう。誰と話しているのだろうか?
そう思い、視線を地面から遠く、行飛が歩いてくる通りを眺める。
──行飛の隣、行飛と楽しそうに話しているのは、二人の男女。
女性の方は、道行く人が振り返る程に美人。艶やかな長い若草色の髪は、冬の季節に早くも春の足音を感じさせる。
見た目二十代前半のその女性が着こなすのは、純白のドレス。この場に似合わない服装で、軽やかに歩を進めている。整った顔は、今は微笑を浮かべており、肌も異常な程白いが、何故かその白さがしっくりとくる。
──だが、そんなことはどうでもいい。問題はその女性の隣だ。
その男は背が高く、黒いスーツを纏っている。その左手には白く透き通った隣の女性の手をしっかりと握っており、いかにその女性が大事なのか、一目見ただけでわかる。
しかし、注目すべきは、髪と瞳。
その髪は短く、そして色は青。瞳は燃えるような赤色で、どこかで見たような特徴──いや、この世界で、この髪の色と瞳の色は、俺しか居なかったはず。
そして、こんな状況を、二週間ほど前に体験したことがある。
とすれば──
「イュタベラの兄ちゃん、めっちゃ話しやすいやん。道端でばったり会ったけん一緒に来たわ」
俺の兄──カリステア国次期国王となる、『ワイガー・カリステア』その人が、日本入りしたのだ。