第69話 クリスマス前日
こうして修学旅行は幕を閉じ、二週間が経った──。
今日は終業式。明日から長期休暇となる。
今年の長期休暇は、これで二度目。夏にあったものと、今日、冬にあるもの。
休暇期間としては、今回の方が短いはずなのだが──。
「…妙に騒がしいな」
夏の頃より、今の方が騒がしい。夏は夏祭りがあるし、何より約一ヶ月間の休暇があるため、夏が騒がしいのは分かる。
しかし、冬はどうだろうか?咲桜に聞いたところ、冬休み中の行事は、大晦日・元旦という新年を祝うものしかないらしい。
その内容を聞いても、蕎麦を食べたり、『年越しライブ』とかいう物を見たり、聞いた感じだとそれほど盛り上がる要素はない。
やはり、長期休暇が楽しみなのだろうか?
いや、しかし──
「ベラ、どうしたの?」
悩んでいるとそこへ、咲桜がやってきた。と言っても、隣の席なのだが。
「なんか、夏の頃より皆騒がしくないか?何かあるのか?」
先程まで考えていた事を、目の前の咲桜に問いかけてみる。
これは前に一度した質問だ。咲桜もこの前と同じ答えを──
「い、いい、いや?ななな、何も無いよ?うん、この前言った通り、大晦日と元旦くらいしかないよ?うん、ね?何も無い何も無い。ほんとだよ?ほんとほんと」
答えた咲桜の目は泳ぎまくっており、俺の机に着いた右手はぴくぴくと動いている。これは、嘘をついているサインだ。
しかし、咲桜も真実を言うつもりは無い様子。
こうなれば、他の奴に聞いてみるか。
一度席を離れ、教室の一番後ろで話し込んでいる行飛の元へ。
「なぁ行飛、今回の長期休暇って──」
「お、噂をすればやん。イュタベラ、プレゼント何渡すん?」
声を掛けた矢先、そう問い掛けられた。プレゼントとは?
「ん?どういうことだ?プレゼント?」
「あれ、イュタベラの地域っち無かったん?いや、あるよな?『クリスマス』」
「くりすます?」
初めて耳にする言葉…では無いな、確か朝食をとっている時にニュースで流れていた。内容は聞いていなかったが──。
「咲桜さんになんかプレゼント渡すんやろ?何にするん?」
「クリスマスってまず何なんだ?俺がいた所には無かった行事なんだが」
凄く癪に障る微笑みで俺を見る行飛。
俺の問に対して、行飛は信じられない者を見るような顔をし、
「嘘やろ、クリスマス無かったん?クリスマスっちゅーのは、プレゼント渡しあったり、そこの広場でツリーが飾られたり、なんかいろいろあるんよ」
学校の近くの大きな広場を指さしながら、そう説明する行飛。なるほど、それでプレゼントの話に──。
しかし、いきなり言われて是非これを、と言えるほど俺は贈り物をした経験が無く、渡して喜ばれる物が分からない。
それに、疑問が一つ浮かんだ。
「なんで咲桜はこの事隠してたんだ…?」
こんなに楽しそうな事、咲桜が俺に言わないわけが無い。しかし、先程は分かりやすい嘘をついてまでも、この事を隠そうとしていた。
一体、何故──。
「あ〜、イュタベラ?多分プレゼント何にするか考えよるんやろうけど、どうせなら一緒行かん?今日午前中に終わるし」
「何故……ん?一緒に?」
「おう。イュタベラこういうの実は疎そうやし、俺結構センスあるっち言われるんよ」
ドヤ顔でそう言う行飛。腹が立つ。
しかし、何だか焦っているような──。
「そんなに急がなくてもいいんじゃないか?クリスマスっていつあるんだよ」
「明日」
「──え?」
「明日よ。あ、そだ。おい真也!放課後付き合って!」
「用事あるけん無理!」
そんな訳で、放課後は二人で買い物に行くことになった。