第67話 リア充は〇〇しろ
地主神社、その恋占いの石の元へ辿り着くと、先程とは変わって多くの人々が、石の間を目をつぶって渡っている。
その周りには、話の通り沢山の人が助言──及び邪魔をしている。
また、これは片方の石からもう片方の石へ渡るのが正しいのだが、今挑戦しているカップルは、もう片方の所に彼女らしき人が手を広げて待っている。なるほど、見事渡りきればハグしてもらえる、と。
「あ、あの人もうすぐで渡り切れそう」
咲桜が言ったと同時、目をつぶった男性は女性の元へ。すると女性は、その手を男性の背へ。男性を包み込む腕は優しく、周りで歓声が上がっている。
そうして二人が神社の外へ出ると、観客も蜘蛛の巣を散らしたように去っていく。
今なら、誰もいない。
「よっしゃやろうや!真也おら行くぞ」
「うぉっ、ちょ待てっちゃ!」
いつもよりテンションが高い行飛がそう言って、真也と共に石の元へ歩いていく。
その途中、不意に俺の耳元でこう囁いた。
「俺こっちで梓さんと真也くっつける作戦決行するけん、イュタベラはこのまま真也連れてって」
そう言って、行飛が真也から手を離す。俺は戸惑いつつも、真也が行くべき、十メートル先の石へ。
「イュタベラ、何もすんなよ?」
「ん?何もするつもりないけど?」
何故かそう真也に睨まれ、困惑。そして真也は観念したのか、目を瞑る。
「よーし!じゃあそこで五回くらい回転してー!」
もう片方の石から、行飛が大声で指示を出す。
真也は「えー」と言いつつも、その場で五回転。
足元が覚束無いまま、真也が歩く。その横を、俺も並行して歩く。
真也はしかし、その足取りは順調に、ゆっくり歩みを進め、三メートル、四メートル、五メートル…。
そして、残り一メートル、もう少しでゴール、という所だ。
「やっべ躓いた」
「ふぇっ!?」
真也が石へ辿り着く直前、行飛が抑揚のない声でそう言い、梓を石の傍へ。
そうして梓が石へ来れば、あとは先程の男女のように──
「ん?これ着いた?でもこれ石?ゴツゴツしてなくね?───え?」
足元に感じる感触を不安に思った真也が、その場で目を開ける。そして、驚きに数秒止まった。
それはそうだろう。自分が好意を寄せている人物が、間近に居るのだから。
そうして真也、梓がお互い止まり──
「──イュタベラ、行飛、覚えとけよ」
そう低く、しかし顔を赤らめながらそう言った。
その後は、行飛は「やらない」といって棄権、梓も先程の真也との接触が恥ずかしかったのか、棄権した。案外、真也と梓は両思いだったりして?いや、梓はミロットが──これ以上考えるのはやめよう。
そして、次は咲桜がやる、という事になった。
十メートル先の石へ駆け足で向かい、目をつぶって十回ほど回転。フラフラになった足でこちらへ向ってくる。
残り三メートル程のところで、行飛の動く気配。先と同じことをするつもりのようだ。
「行飛、さっきと同じことやったら、分かってるな?」
小声でそう言って、行飛を牽制。当の本人は「な、なんの事?」としらばっくれている。
「はぁ、しょうもないからやめろよ?そんな事するのは真也でじゅうぶ──」
「もうすぐかな?───わっ」
行飛へ忠告すると同時、咲桜の小さな悲鳴。
足元に大きめの石があったようだ。このままでは頭から転ぶ。その前に──
「よっ──と、危ない危ない…」
咲桜の転ぶ先に予めしゃがんで待機。倒れてきた所に手を添え、咲桜を抱きかかえた。
抱きかかえた。
抱きかかえ──
「あっ──」
その事実に気づき、周りを見れば、行飛、真也が口を揃え──
「「──やるやん」」
梓はと言うと──
「リア充がさっさと結婚しろ」
どうやら俺は、黒歴史というものを作ってしまったようだ。
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そうして、顔を赤らめた咲桜と先のことを茶化す三人と共に、最後の集合場所へ。
「皆集まったかー?それじゃあ今から帰るぞー」
午後三時、こうして俺たちの修学旅行が幕を閉じた。