第65話 学力向上への道
法隆寺を離れ、タクシーを使って一時間程。長時間車に揺られ、たどり着いたのは北野天満宮だ。
ここには学問の神様が祀ってあるらしく、主に学生が来るようだ。なんでも、日本の学校には『受験』というものがあるらしく、その結果によってより上の学校に行けるのだそうだ。カリステアで言うところの、ギルドの昇級試験のようなものだろう。
そして、俺たちは現在中学二年生。咲桜たちは来年に受験があるらしい。しかし俺は残り三ヶ月でカリステアに帰るため、俺の用事はない。ただレポートを書いて終わりだ。
しかし他はといえば、ここへ着いた瞬間、表情が強ばっている。無論、咲桜もだ。
分かりやすく緊張している四人を見て、不覚にも笑いそうになった。
と、このままじっとしている訳にもいかず。
「ほら、行くぞ」
俺が声をかけると、四人は同時に肩を跳ねさせ、「う、うん」と一歩踏み出した。
そうして俺達は、中へと入っていった。
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北野天満宮、最奥。
「なるほど、大きな建物だな。あれは…賽銭箱?だったか?」
自然の溢れる大通りを抜け、俺達は北野天満宮の最奥へ辿り着いた。
道中皆緊張しており、軽い話を入れるような雰囲気ではなかった為、北野天満宮に入ってからはこれが第一声となる。
大きく古びた、木造の建造物。清水寺や法隆寺もそうだったが、こんなに大きな建物を何故木で造ろうと思ったのだろうか?
より昔の日本への疑問が深まったところで、四人が静かに前へと歩き出す。
それに倣って俺も前へと踏み出すと、大きな鈴のような物から下がった綱を、行飛が体全体を使って揺らした。
シャラン、シャラン──
重く響く鈴の音。その音の余韻に浸っていると、今度は四人一斉に手を二度鳴らした。
乾いた音が境内に響く。そして──
「「「「どうか、受験に受かりますように!」」」」
四人の声がひとつになり、辺り一帯に木霊する。俺も一応手を鳴らし、無言で拝んだ。
そうして一段落した様子の四人は北野天満宮に背を向ける。
すると今度は、境内の端、小さな小屋のような所へ一直線に行き──
「お守り買っとこっか」
「これ買わんとダメやろ」
「あぁ〜、ミロット君から貰いたかったぁ〜」
「あ、このお守り…って、ベラ、こっちこっち!」
やっと口を開いたかと思えば、先程の荘厳な雰囲気はどこへやら。いつもの調子に戻り、居心地も良くなった。
そうして咲桜たちの傍へ行けば、色とりどりのお守りが所狭しと並んでいる。
「ベラ、これどう?可愛くない?」
「学問の神に可愛さを求めるのか?」
「いいじゃん!これだと勉強のやる気出そう!」
桃色の花が刺繍されている、水色のお守りを見せつけ、俺の目の前でヒラヒラと揺らす。
それを手で押しのけ、会計を済ませろ、と指をさして促す。
そうして四人が買い終えると、これで北野天満宮の用事は終わりだ。
「次が最後よね?地主神社やっけ?」
行飛が確認をとり、全員が首肯する。
さて、これで京都巡りも最後だ。カリステアでの土産話の材料として、最後まで張り切らねば。