第63話 男子会
こうして、初日の京都巡りは終わり、ホテルへ着いた。
「飯も食ったし、あとは風呂はいって寝るだけやな」
「あれ、明日どこ行くんかね?」
「明日は、北野天満宮、法隆寺、地主神社だ」
学年全員が京都巡りから帰還し、それからすぐに豪勢な夕食会が行われた。
出てくるものはどれも色合いがよく、とても美味しかった。特に『湯豆腐』は、シンプルながらもとても美味で、汁物との相性が非常に良かった。また食べたいな。
その後、俺たちは風呂の順番が来る間、こうして部屋で駄弁っているわけだ。
「ん?そういえば、北野天満宮と法隆寺は分かるけど、地主神社っちなんで行くんかね?」
明日行く場所を確認していると、真也がふとそんな疑問を口にした。
北野天満宮と法隆寺は、クラスの提案で全班回ることになっており、もう一つは各班で決めて良い事となった。俺達は地主神社にしたのだが──
「真也んなことも知らんかったん?あれちゃ、縁結び」
「確か、石が道に二つ距離をとって置いてあって、目をつぶって片方からもう片方に辿り着けたら、恋が成就する、だったか?」
「あ〜、そいえばそうやったな。んで?」
「ん?」
「で、とは?」
真也の質問に、行飛と俺が答える。
しかし真也は、そのボサボサの黒髪を掻き、細い目を更に細くしながら、
「決まっとるやん──誰か好きな人おらんの?」
なるほど、さては真也、惚気話が大の好物だな?
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かくして、ここに男子三人の、男子会が幕を開けた。
「行飛、好きな人おらんの?お前背高いし顔いいけんモテるやろ?」
最初に攻撃、いや、口撃を仕掛けたのは真也。
「いや〜、結構告白はされるんやけど、実は俺二次元しか──」
「お前、一旦全国の非モテ男子に土下座した後にドブに二週間埋まっとけ」
しかしその質問に対し、行飛は斜め上の発言をして口撃を躱す。
真也は細い目を釣り上げ、行飛を憎悪の眼差しで見つめる。
そうして真也の口撃が終われば、次は攻守交替だ。
「んじゃ真也は?おらんの?」
サラサラとした前髪を弄りながら、大きな瞳を柔らかく細め、微笑みながら真也に問いかける。口撃だ。
問われた真也は、反撃に対して備えていなかったようで、赤面しながらそっぽを向く。これはもう、そういう事だろう。
「誰なんだ?ちょっと俺にだけ言ってみろ、誰にも言わないから」
「イュタベラ、嘘つく時耳触るやん。ぜってぇ言わん」
おっと、そんな癖があったのか。今後気をつけなくては。
しかし、真也はこれ以上の詮索を頑なに拒んでおり、両手で耳を塞いでいる。
その手に、ふと白く細い手がかかった。行飛だ。
「俺には聞いて、自分だけ逃げるっちどうなん?ん?ん?」
「──」
行飛に耳元で煽られる真也。しかし、未だに腹を割って話すつもりは無いようだ。
だが、行飛は見逃してはくれない。
「あーあ、梓さんも真也の好きな人知りたいやろうな〜あ〜あ」
「──っ!?おまっ、なんで!?」
「はい、好きな人は梓さんね」
「あ──」
あぁ、真也のやつ、完全に墓穴を掘ったな。これは行飛の方が一枚上手だったようだ。
「で?どこが好きなん?梓さんって結構変わり者っぽいけど?」
「梓は重度の年下好きっぽいからなぁ。ミロットにも手を出しそうになっていたし」
清水寺での事を思い返してみろ。終始涎が出ていたぞ。
少し梓に対しての評価が低い俺たち二人。
その二人の意見を聞いた真也は、「それはそうだけど…」と小さく否定し、しかし次第に声は大きく──
「あ、梓は、実は家隣で、幼馴染なんよ!やけん、その──」
自分の予想以上に声が出たのか、恥ずかしそうに言葉がしりすぼみになる。
いやぁ、それにしても、これは本気で好きだな。
「ごちそーさん」
「ありがとう」
「お前ら覚えとけよ」
いやぁ、惚気話はいいなぁ。
あれ、そういえば──
「二人とも、俺には?聞かないのか?」
「「いや、お前は咲桜やん」」
「──あぁ、はぃ」
どうやら、周知の事実となっていそうだ。困った。