第62話 清水の舞台
入口でそんな茶番がありつつ、俺たちは上へと向かった。
木製の階段を、上へ、上へ。
そうして、拓けた部屋に着いた。
冬の冷たい空気が流れ込む室内。とびらを開ければ、外の景色が一望できる。
沢山の木々。今は枯葉が散っているが、春や秋には、桜、紅葉など、四季折々の風景が楽しめるらしい。
「ベラ、ここ高いよ!眺めもいい!」
「お兄ちゃん、すっごく綺麗!」
「ミロット様、危ないですよ」
この階層に着くなり、咲桜とミロットはこの調子で、先程よりも更にテンションが高い。
ミロットに関しては、背が小さいので、飛び降り防止の柵を潜って飛び出しそうになっている。幸い、メイド長兼ミロットファンクラブ会長のシャランスティが止めているが。
「真也、こっちまだ花咲いとる木あるぞ!」
「え、まじ?どこ?」
「み、みみみ、みみミロット君…?こんどお姉ちゃんと…」
「アズサ様、申し訳ございませんが、ミロット様は多忙なのです」
涎を垂らす梓に、シャランスティが冷静に対応。しかしその目は冷徹で、今にも梓を射抜かんとしている。
そんなやり取りを他所に、俺は一人、建物を見物。古びた木材だが、作りはしっかりとしている。木だけで作るとは、本当に、日本の技術とは素晴らしい。
そうして各々時間が過ぎ、現在、俺は一人で内装を見て周り、真也と行飛は二人で外を眺めている。その二人と同じ場所で、咲桜とシャランスティ、梓が談笑しており、シャランスティがミロットの肩に手を添えて、お守りをしている。
そろそろホテルへ集まる時間だ。
大方内装を観察した頃。そろそろここを離れようと、咲桜達がいる方へ向かう。
空は朱色に埋めつくされ、どこからか烏の鳴く声が、大空の下で響く。
こうやって、ゆっくり風景を見渡すのも良いな、と、そう思いながら右足を出した、その時だ。
不意にミロットがシャランスティの手から離れ、俺の元へ駆け寄ってくる。
俺の元へたどり着き、「あのねあのね」と上目遣いでこちらを見るミロット。
「もう行っちゃうんでしょ?僕達はもう帰るけど、パパから言っておいて欲しいことがあるって」
「うん?父さんが?」
小さくジャンプしながら、俺に言伝するミロット。
その内容だが──
「あと数年で作れる、だって。お兄ちゃんだったらなんの事か分かるって言ってた」
何も聞かされていないのだろう。ミロットは淡々とそう告げる。しかし反対に、伝言を聞いた俺は驚きが隠せなかった。
まさか、アレが可能なのか?
俺がこの事を提案した時、父さんは「この世の理が覆りかねないから、難しい。出来たとしても、承認されるのは困難だろう」と言った。それを、成功させたのだろうか。
だとしたらこれは、全人類、全生物、全世界における快挙だろう。
「そうか!ありがとう、ミロット!」
「わわわっ、お兄ちゃん、そんなに持ち上げられたら怖いよぉ!」
「いやぁ、喜ばずには居られないよなぁ!」
思わずミロットを抱きかかえ、そのままその場で回転。ミロットが手足を振り抵抗するが、力の差が違う。
そうして一旦落ち着くと、ミロットを地面に下ろし、その頭をクシャクシャと撫でる。
「本当にありがとう、ミロット。」
「ううん、あ、それとね!」
今一度感謝を伝えると、ミロットは照れつつ、人差し指を俺の目前に突き立て、
「咲桜お姉ちゃんのこと、頑張ってね!」
そう言って、そそくさとシャランスティの元へ去っていった。
「……ミロットのやつ、なんつー爆弾置いていきやがった…」