第61話 二本の杖と、願いと力と
そうして歩くこと数分、俺たちは目的の清水寺に着いた。
「ん?入口に何かある…」
入口へ入ると、右側の壁に杖の様な物二本、短い物と長いものが箱に刺さっている。また、その近くには鉄で出来た下駄が。気になり見てみると、どうやら何かしらのご利益があるらしい。
「ベラ、何それ?」
「さぁ?これで戦うわけでも無いだろうし…」
隣の咲桜も聞いてくるが、やはり分からない。一体これは?
「イュタベラ、これあれやろ、あのー、あれ」
「それ確か、杖の方が片手で持ち上げれたらなん願いが叶うかなんかなるらしいよ。下駄は女子が触ったら将来金持ちになるんやった気がする。みんなでやってみらん?」
願いを叶える、か。
──やってみようかな。
いや、あれだぞ?こういう、挑戦的な?持ち上げられるか試す的な?そーゆーあれだぞ?断じて咲桜のことなど微塵も考えてないぞ?本当だぞ?仮に持ち上がったとしてもちっとも嬉しくないぞ?皆でやろって真也が言うから、仕方なくだぞ?
俺は誰に言い訳してるんだ。
真也の提案に、俺だけではなく、他も乗り気なようで。
「いいねぇ。下駄触って金持ちになってそこのショタと…」
「梓ちゃんはもう少し自制しよ?あと私たちに女子力はもう手遅れと思うよ」
と、女子二名。
「楽しそう!僕やりたい!」
「そうですね、わたくしも少し腕がなまってそうですが。腕試しということで」
「シャランスティ、これは戦闘用ではないからその殺気をおさめろ」
こんな感じで、杖を持ち上げる挑戦を、一人ずつすることに。
まずは行飛から。
「ふんっ……!!なんこれ…っ!!おっも!!」
行飛は学年随一の運動神経の持ち主だが、それでも杖は少しも動いていない。演技かと疑うほどだ。
この杖、見た目に反して重いのか?
「むりむりむり!真也、任せた」
「うっし!」
ハイタッチして交代。次は真也の番だ。
「軽そうやけどなぁ…。ふんっ…!!あぁ、これ無理やん、重すぎる」
杖の柄を握り、少し持ち上げる素振りを見せると、すぐさま手を離す。笑いながら、「諦めるわ」と行飛の元へ。
「次私と梓ちゃんでやるね!」
「女子用の短い杖か。てか、二人でやるっていいのか?」
「さぁ?」
今度は咲桜と梓、二人での挑戦。しかし、二人とも運動出来るわけでもなく、運動部にも所属している訳でもないので──
「むり!」
「わたしのショタが…あぁ…」
「梓、そろそろ殴っていいか?」
二人でやったところで、結果変わらず。残るは異世界人三人のみ。
先鋒はミロット。先程の話で魔力は平均の数十倍あることは分かっているが、筋力や如何に。
「ふん〜〜!!こ、これで限界〜!」
数ミリ持ち上がっただけで、完全に持ち上げたというには程遠い。
そして、次はシャランスティの指名により、俺がやることに。
杖の前に立ち、一度深呼吸。杖は握ったことも無ければ、俺の基礎体力は人並み以下だ。ということは、結果は──
「よし──ふんっ…!!ん…?」
杖を握り、持ち上げた所で違和感が。
「かる…い?ん?いや、そんなはずは…」
赤子でも持てそうな程に、軽く感じる。そのままの調子で杖を引き上げ──
「あ」
持ち上がった。数ミリ、ではなく、限界まで。どうやら完全には持ち上がらず、数十センチ持ち上げると、つっかえて持ち上げられなくなるらしい。
「え、ベラ凄い!」
「イュタベラ、めっちゃ軽々持ち上げるやん」
「すげぇ…」
「お兄ちゃん凄い!すっごく重かったのに!」
「あぁ、わたしのショタが奪われた…」
「イュタベラ様、お見事です」
他の面々から賞賛され、少し照れる。しかし、なぜこうも簡単に持ち上がったのか…。
取り敢えずガッツポーズをして、挑戦終了組の方へ。
そうしてら最後。今度はシャランスティの番──だが、しかし。
「おや、これは本当に重いのですか?軽すぎる気がしますが…。それに全体的にボロボロです。手入れをして欲しいですね」
シャランスティは杖の前に立つと、右手で男用、左手で女用の杖を、軽々と持ち上げて見せた。
「──」
皆言葉を失う。シャランスティのその姿は凛々しく、表情の変わらないその顔は、珍しく落胆を表している。
そうした静寂の中、それを打ち破ったのは──
「──俺が持ち上げた時の感動を返せ」
俺の、切実な一言だった。