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誰か異世界の常識を教えて!  作者: 三六九狐猫
第七章 修学旅行
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第60話 本日の主役

 

「ミロット、なんでここに!?」



 京都、清水寺へ続く商店街の道中。黒髪黒目の日本人や、金髪の外国人が上へ歩みを進める中、一人浮いた存在。青い髪に、赤い瞳。身長は年相応の小ささで、顔は女子と見紛うほどに可愛い。とても可愛い。凄く可愛い。


 そんな、()()()が、なぜ日本へ居るのだろうか?



「お兄ちゃん!会いたかった!」



 俺に気がついたミロットは、すぐさまこちらへ駆け寄り、抱きついてくる。


 小さな衝撃に体を揺らされながら、一度冷静になる。


 ミロットも、俺も、元はカリステア──日本から見ると、異世界から来た異世界人なのだ。


 そして、俺が日本へどうやってきたのかといえば──



「父さん…」



 俺は父親の魔法で、強制的に日本へ連れてこられた。ならば、ミロットも俺と同じように、強制的にここへ来させられた、と考えるが。



「いや、でも父さんは日本の偵察を延期にしたし、何よりミロットをここへ寄越すだろうか?うーん…」



 そう、俺は初めは強制的に日本へ連れてこられたが、今こうして日本で暮らしているのは、俺の意思であり、この状況に父親の思惑は一切無い。


 なら、一体どうやって…



「ミロット、なんでここに──」



「あのねあのねっ!僕ね!パパのクイック・サモンが使えるようになったんだよ!凄いでしょ!」



「あぁ、そうかそうか、クイック・サモンで──え?」



 少し待とう。考える時間を要求する。


 つまり、ミロットは父親に強制的にここへ連れてこられた訳ではなく、自らの意思で、しかも父さんですら魔力消費了解が多すぎて一ヶ月は休まないといけない魔法を、九歳で成功したと?


 しかも、見た感じミロットの魔力はそれほど減っていない。ということは──



「ミロット…お前まで才能で俺を置いていくのか…」



「お、お兄ちゃんどうしたの?そんな顔しないで!人に見せられないよ!」



「一体俺はどんな顔してるんだ?」



 魔力量の減り具合、父親でも行使に多大な魔力量を要する魔法を簡単に使用する技量。兄が武術なら、弟は魔術ってか?俺にも何かくれよ…。


 と、実に七ヶ月ぶりの兄弟での会話を交わしていると、流石に蚊帳の外にされた四人は黙っているはずもなく──



「おい、イュタベラ、この子弟なん?」



「可愛いやん。羨ましいわ。俺とかうざい姉ちゃんしかおらんし」



「し、ショタが…可愛いショタが…はぁ、はぁ…!!」



「梓ちゃん、気持ちは分かるけど、抑えて。あと涎拭いて」



 四人がそれぞれの反応を見せ、しかし視線は皆ミロットへ向いている。とりあえず梓は近づかせない。


 咲桜が梓を宥める最中、ミロットは俺の後ろの四人に気づき、丁寧にお辞儀をする。梓が鼻血を出した。無視する。



「にしてもベラ、ほんとに可愛いね。ベラが絶賛するだけのことはあるよ」



 梓のにティッシュを詰めながら、ミロットに対してそう述べる。他の男子二人も、ただただ頷いている。


 あ、忘れていた。ミロットに聞かなくてはならない事があったんだった。



「ミロット、なんでここに?一人で異世界なんて、危ないぞ?父さんも心配するだろうし…」



 俺に対しても含め、父さんと母さんは親バカである。さらに、ミロットに関して言えば、ひっそりとメイド達がファンクラブを作っているのだ。誰から始めたものかは知らないが、ファンクラブ会長が居るのだとしたら、死を覚悟でミロットに着いてきそうだが。


 その質問に対し、ミロットは十度ほど首を傾げ、



「僕、ひとりじゃないよ?あのねあのね!シャランスティさんが迷子になっちゃったの!探してあげて!」



「え、ひとりじゃない…って、シャランスティ!?」



 シャランスティとは、カリステア家のメイド長を任されている、常に冷静で、何を考えているか分からない人だ。俺の魔法の先生でもある。


 そのシャランスティと共にいるなら、まぁ安心だが、辺りを見渡してもシャランスティの姿は見当たらない。



「シャランスティ?誰?」



「えっとね!メイド服来た人!」



「そんなやつこんなとこおったら目立つと思うけどなぁ」



「ショタが…ショタ…」



「梓ちゃん?諦めよ?それに、この辺りにはいない──」



 ミロットの話を聞いて、皆で辺りを見渡すが、それらしい人影は見当たらない。


 梓を未だ拘束している咲桜も、いない、と言いかける。



 その時。



「ミロット様、わたくしはいつでもおそばに居ますので、お構いなく」



「「うおぉ!?」」

「「ひゃっ!?」」



 突如鼓膜を響かせる、感情を殺した抑揚のない声。


 俺は、この声を知っている。



「──シャランスティ、相変わらず神出鬼没だな…」



 いつものメイド服を着た、長身の女性がミロットの背後に立っている。一度でもいいから普通に現れてくれ。


 と、いきなり現れたシャランスティに対して、驚きを隠せない四人だが、しかし数秒後には「あっ」と小さく声を上げ、



「それ、文化祭の時の衣装!」


「イュタベラ、これを元に作ったのか!てかめっちゃ似合ってるじゃん、シャランスティさん、だっけ?」


「あぁ、ショタに女が…あぁ…」


「梓ちゃん、そろそろ怒るよ?」



 文化祭、俺たちのリバーシブルカフェにて、メイド服として採用した俺の案。これは元々、シャランスティの服を元にデザインしたものであった為、皆にも既視感があったようだ。


 四人に言い寄られ、ミロットは照れてシャランスティの後ろへ。シャランスティは依然凛とした姿で立ち塞がっている。


 が、不意にシャランスティはこちらへ向き、



「イュタベラ様、『キヨミズデラ』とは、どちらですか?ミロット様が見たいと申していまして」



 そう言って、背後のミロットへ目をやり、頭を撫でる。見た事ない和やかな顔してる…もしやミロットのファンクラブの会長は──


 と、清水寺と言ったか?一体どうして清水寺なのだろうか?



「なぜキヨミズデラかと言いますと、先程申しました通り、ミロット様が見たいと仰ったからです。本日はミロット様の誕生日ですから」



「あ、あ〜、そういう…」



 誕生日プレゼントとして、清水寺の観光を要求した、と。ということは、ミロットは何度か日本へ来ていたのか?そしてその事をシャランスティが知っているということは、シャランスティも日本へ来ていたのだろうか。


 そうして目的を告げたシャランスティに、俺と他の四人の日本人は顔を合わせ、頷き合う。考えは同じだ。



「シャランスティ、俺達もそこへ行くんだ。一緒に行かないか?」



 ミロットとシャランスティも加われば、もっと行き道が賑やかになるはずだ。人は多い方が賑やかになり、賑やかなほど楽しい。



「承りました。ご同行させていただきます。あ、それと、イュタベラ様」



 完璧なカーテシーを披露し、俺たちの提案を肯定する。


 そして、俺の方へ顔を向け、



「ミロット様のプレゼント、今渡されてください。ミロット様も、少しは緊張がほぐれるかと」



「あぁ、分かったよ。ほらミロット、可愛いストラップだ。お前にピッタリだろ?」



「すとらっぷ?わぁ、可愛い!ありがと、おにいちゃん!」



 はい可愛い。



 こうして、俺達も七人は、清水寺へ向かう坂道を登った。

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