第57話 今日は京都に行こう
その後、俺と咲桜の間にあった気まずさは、時間の経過とともにどこかへ去っていった。
ハロウィンはもう終わり、年月は流れ──十二月。
空気の冷たくなった頃。とある計画が、実行されようとしていた。
それは──
「今日から修学旅行やん!めっちゃ楽しみ!」
「京都行ったら東寺行きてぇ」
「寒い…」
「あぃ、皆静かにしろ〜。体育館なんだから、余計に私語を慎め〜。んじゃ、バスがもうじき来るから、一組から準備してくれ」
どうやら、今日から修学旅行のようだ。
――――――――――――――――――――――
午前七時、修学旅行専用のバス内にて。
「やっときたね、ベラ!京都だよ、京都!」
「隣だからそんなに騒がなくても聞こえるし、京都に何があるのか俺は知らない」
『バス』という乗り物は非常に便利なもので、一般的な乗用車と比べて圧倒的に車体が大きく、その分乗れる人の数も多い。
俺ら二年一組は総勢三十一人だが、その全員がこの乗り物に乗れていることから、バスがどれほど大きいか、想像できるだろう。
中は多くの座席が等間隔に配置されており、全て青色で統一されている。
俺はそのうちの一席、窓際の席で背もたれに寄りかかっている。その隣では咲桜が、興奮冷めやらぬ様子で、視線を右へ、左へと忙しなく動かしている。怯える小動物のようでとても可愛──ん゛ん゛っ!
上記に俺と咲桜の間の気まずさは無くなったと書いたが、決して俺の恋心が消滅した訳では無い。寧ろ、逆である。
時が経つ程、咲桜への想いは強くなる一方。返事はまだ受け取るつもりは無い。というか、未来永劫受け取るつもりは無い。
俺は仕事のできる兄のようにかっこよくもなければ、メイドたちに好かれる弟のように、表情やちょっとした所作に可愛げがある訳でもない。
それな俺に寄り付く人は居ないわけで。自分で書いてて悲しくなるな。
とにかく、現在福岡から京都へと移動中。先ずはバスに乗って、その後『駅』に行くらしい。
駅はには『電車』という、バスよりも高性能な乗り物があるらしく、そちらの方は楽しみだ。
京都に関しては、正直それほど興味をそそられない。何故と聞かれれば、建物にそれほど興味が無いからだ。
ただ、『八つ橋』という食べ物は美味しそうだった。モチモチの生地の中には餡子が入っており、京都と言えば八つ橋、という程人気なのだそうだ。
それだけは楽しみだ。
そうして思いを馳せる内、駅に着き、電車で移動して、遂に──
「うわ、京都やん!」
「京都タワーやん!」
「雪降ってない…」
「着いたね、ベラ!寝顔可愛かったよ!」
「あぁ、着いたな──ん?寝顔?おい、撮ったのか?今すぐ消そ?な?」
咲桜に交渉しつつ、京都に無事到着したのだった。