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誰か異世界の常識を教えて!  作者: 三六九狐猫
第六章 芽吹中文化祭
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第56話 これが田舎のハロウィン

 

 玄関の扉を開けると、外は存外暗くは無かった。


 闇に包まれたはずの町に、等間隔に設置された街頭の光が灯され、薄ぼんやりと道を照らしている。


 空を見上げると、丸々とした月が観測できた。


 星は…見当たらない。恐らくはこの街灯が、星の自己主張を邪魔しているのだろう。


 隣には、パジャマの上に薄い上着を着た咲桜が、辺りをキョロキョロとしながら地道に歩いている。そういえば、こういった暗い場所が苦手だったな。


 俺と咲桜は今、美桜子さんと健蔵さんに言われ、近くのコンビニへと足を運んでいる。


「お菓子を買ってきなさい」との指示を受け、それを達成しに行く所だ。恐らくはハロウィンを楽しむのだろう。


 仄暗く、静謐に満ちた町内で、俺と咲桜、二つの足音が響く。今頃町を出歩く者はいない。


 コツコツ、コツコツと足音を鳴らして数分。俺たちは目的地であるコンビニに着いた。


 中へ入り、お菓子の棚へ。


 カリステアでも甘味の種類は豊富だったが、日本はそれを軽く上回っている。更に、見た目や味に関してもカリステアでの一級品に等しい。


 そして、派手さのみにとらわれないのも、ここ、日本の甘味の凄いところだ。


 俺はチロ〇チョコとポッ〇ー、プ〇ッツ、チョ〇ビなどを買い物カゴに入れ、咲桜もそこにお菓子を入れていく。


 そしてカゴが満杯になると、会計に急ぎ、紙幣で支払いを済ませ、自動ドアから外へ出る。このドアの技術も凄いところだ。


 と、こうして頼み事を終えた訳だが──








 家を出てからここまで、俺と咲桜は一言も会話をしていない。


 ここに会話シーンを書かなかった訳では無い。双方口を噤み、ずっと黙っていたのだ。


 別に咲桜と仲が悪くなった訳では無い。恐らくは、家族といる時は平気だったが、俺と二人になった途端、文化祭でのあの一幕を意識しているのだろう。


 遠回しにした告白が、ここまで咲桜に影響を与えるとは思っていなかったということに若干の後悔の念を抱き、しかし胸中には少なからずこの状況に安堵している自分がいた。


 無論、咲桜とはずっと言葉を交わしていたい。だが、かく言う俺も、家を出た時から、いや、それよりずっと前から、咲桜の隣に居るだけで心臓が高鳴っている。


 今もその鼓動は治まることを知らず、逆に勢いを増しているように思える。







 そろそろ気まずくなってきた。何か良い話題は無いだろうか?


 そう思った矢先、不意に咲桜が口を開いた。



「ねぇ、ベラ」



 その声音は少し緊張で震えており、街頭に照らされている横顔は、少し赤らんでいるように見える。



「ん?どした?」



 そんな咲桜には気づかれないよう、至って平然を装う。しかしそれに反比例して、この鼓動の勢いは未だ増していた。



 咲桜は俺の返答にほっと息を吐くと、進行方向はそのままに、視線をこちらへ向けた。


 視線が交わり、途端に気恥しさを覚えるが、敢えて視線はずらさない。ずらしてはならないと思った。



「あの…ね。最近ベラの様子がおかしかったから。ちょっと気になったの。──まだ、文化祭のこと、気にしてるのかなって」



「──!」



 核心を突かれ、少し息が詰まる。にしても、咲桜は俺の事を気にかけてくれていたのか。本当に優しいな。そういうとこだよ、咲桜の好きなところは。



「返事は…まだしなくていいの?」



 俯きながら、咲桜は両手の指をくねくねさせてそう問いかける。因みに、荷物は俺が持っているため、咲桜の手は空いている。



「あ〜、うん。返事が聞きたい時は、俺が言うから」



 冷静に、このどうしようも無くなった感情を心の奥深くに押さえ込み、そう返答する。



「──そっ…か。うん、分かった」



 すると咲桜は、少し寂しそうに返答した。その様子に違和感を覚えるも、今の俺はこの妙に五月蝿い心臓を抑えるのに必死で、その事は聞けなかった。







「ベラ()、私の事、好きだったんだ…良かった」



 その声が俺に聞こえることはなく、良くも悪くも、何も起きずに家へたどり着いた。



 ――――――――――――――――――――――



「おかえり!わぁ、いっぱい買ってきたわね。それじゃあ、ハロウィン──というか、お菓子パーティー始めましょうか!」



「お父さん甘いの苦手だから、煎餅でも齧っておくよ」



 帰宅後、家で待っていた二人は、少しテンションが高い。健蔵さんも、言葉の内容とは裏腹に、棚へ手をかけ、「煎餅煎餅…」と探している。




「じ、じゃあ咲桜、食べようか」




 今度は俺から咲桜へ話しかけ、咲桜も家へ帰って調子が戻ったのか、買ってきたお菓子を漁っている。


 それに倣って俺も、お菓子を漁った。







 それから約三十分。俺たちは談笑しながらお菓子を食べた。ニュースでは、謎の黒服姿の人物が、皇居へ足を運んだ、ということが話題になっているらしい。


 このニュースは五ヶ月ほど前から今日まで絶えず放送されており、学校でも少し話題になっていた。


 それを見ながら俺は、



「──早く()()が出来ますように…」



 そう願いながら、長い夜を過ごした。



 ハロウィンの終わりを、少しばかり惜しみながら。

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