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誰か異世界の常識を教えて!  作者: 三六九狐猫
第六章 芽吹中文化祭
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第55話 高峯家のハロウィン


 あれから二週間。なんとか咲桜とは今までと同じように接することが出来ている。いや、できているように見える。


 咲桜はどうかは知らないが、少なくとも俺は前より意識してしまっている。早くいつも通りに戻さないと…。



 そして現在俺は、高峯家全員で夕食を食べている。テレビを見ながら、その内容を肴に会話を弾ませる。これが高峯家の日常、『常識』である。



『続いてのニュースです。東京都、秋葉原でハロウィンの仮装大会が開かれています。中継を繋ぎます。早瀬(はやせ)さーん』



 少し声の調子が上がり、笑顔で原稿を読み上げる『アナウンサー』。それから画面が切り替わり、夜闇に光る街灯が、街を照らしている映像が流される。そこには、先程アナウンサーが言った早瀬という人が、楽しそうにこちらに向かって話し、街ゆく人に話しかけている。


 しかし、その街ゆく人の恰好が、明らかにおかしい。


 人間とは本来、肌色(薄橙というらしい)の肌をしており、目が二つ、耳も二つ、口、鼻が一つずつ、そして眉毛、まつ毛が顔面にあり、頭には髪が生え(生えていない人もいる)、体には腕が二本、脚も二本ある、というのが通常である。


 だがしかし、現在テレビに映っているのは、額に目があるもの、背中から翼や腕が生えているもの、緑色の肌を持つもの、動物の耳や、魔族の耳を持っている者が画面いっぱいに広がっている。日本には知的生命体は人間しかいない、と咲桜に以前聞いたが、あれは嘘だったのか?


 いや、流石に咲桜が嘘をつくわけが無い。嘘をついたところで、なんのメリットもないからだ。


 だとすれば、これは──?



「わぁ、今年も仮装大会凄いね。クオリティが高い」



「そうねぇ。サクもやってみたら?」



「咲桜とイュタベラくんも仮装すればいいのに」



「そんなことしたってここじゃ誰も仮装しないから浮くでしょ!知らない人の家で『トリックオアトリート』とか言えないもん!」



 すると、隣の咲桜、向かいの健蔵さんと美桜子さんがこの光景を話題に会話を展開する。ついていけない…。



「これってどういう状況なんですか?仮装ってことはこれ全部人間ですか?」



 場の空気に耐えられず、率直な質問をぶつける。仮装だと言えば咲桜の『日本の知的生命体は人間のみ』という発言も真実となるが、ここまで再現度の高いものは見たことがない。というか、仮装自体カリステアではしなかった。



「人間ですかって…ふふ、やっぱりハロウィンって、不思議に見えるよね」



 すると、質問の答えが隣から発せられた。咲桜はくすくすと口元にを当てて笑い、「あ、ハロウィンっていうのはね」と続け、



「昔は、確かサウィン祭っていう、ご先祖さまの霊が家族に会いに来るっていうお祭りだったんだけど、いつの間にか仮装したり、お菓子貰いに行ったりするお祭りになってるの。あ、でもジャック・オー・ランタン作る人はたまーに見かけるよ。あ、ジャック・オー・ランタンって言うのはね…」



 と、隣で説明してくれる咲桜。よくそんな知識持ってるな…と感心しつつ、しかし話すにつれこちら側に体が近づき、風呂上がりで少し濡れた髪の毛が艶やかさを纏って視界に揺れ、ボディソープの仄かに香る甘い香りが鼻腔を掠める。こんなだから、未だに意識してしまうんだよ。





 ひとしきり説明を終え、ハロウィンの何たるかを知った俺は、もうその事を扱っていないニュースを見ながらポツリと。



「ハロウィン、面白そうだな…」



 そう呟いた。


 ただの独り言だったのだが、それを聞いた高峯家三人は、一斉に俺の方を見る。視線が集まり、体が少し強ばる。


 そして三人は、互いに顔を見合わせると──



「イュタベラくん、お菓子買いに行こう」

「もちろん、イュタベラくんとサクだけよー」

「そうだよ、ベラと私だけ──え?え!?」




 どうやら、まだ今日は終わらないらしい。

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