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誰か異世界の常識を教えて!  作者: 三六九狐猫
第六章 芽吹中文化祭
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第54話 隠し事は、いつまでも隠せない


「俺が、悲しそう?」



 俺が倒れたせいで、予定より長く仕事をしている行飛達に礼を言おうと、保健室のドアに手を掛けた瞬間、咲桜はそんなことを言った。


 先程俺は、自分が思っている以上に咲桜が好きな事、その好きとは、友達としてでは無く──と言うことを理解した。そして、この恋心を胸の内に閉じ込めることを決意した。


 確かに、これは悲しい事だ。だが、必要なことであって、悲しいなど、思うはずもない。思ってはならない。


 ならば咲桜は、俺の何を見たというのだろうか。



「なんか、凄く悲しそうな表情してたから、何かあったのかって──あ」



 と、喋っている最中、咲桜は何かに勘づいたようだ。咲桜は自分の右手の人差し指を立て、俺に向けた。



「もしかして──」



 まさか、俺の気持ちがバレたのか?いや、そんな素振りを見せたことは──いや、あった。まさかのまさかでバレたか…?だとしたら結構恥ずかしいぞ…。



「な、なんだ…?」



「まだ接客代わってもらったこと気にしてるんでしょ?大丈夫だって」



「ん?」



 思っていた事と違うことを言われ、戸惑う。斜め上の発言をした事を自覚していないらしく、咲桜はドヤ顔をしている。


 そんな顔も愛おしいと思いながら、この心を悟られないよう、咲桜の先の発言を肯定しておく。



「なんだ、バレてたのか」



「ベラって優しいから、そんな感じかなーって。ベラ検定一級?」



「何それ?」



 よく分からない発言が飛び出したが、ひとまず気づかれてはいないようだ。このままバレないように。時間が経つにつれ、この想いは薄れていくだろう。



「ほら、礼を言いに行くぞ」



「うん」



 隠し事はあまり好きではないが、このことは隠し通そう、そう思った。




 ――――――――――――――――――――――


 そうして喫茶店に戻り、行飛達に礼を言って、少し接客の手伝いをした後、スケジュールを見た。



「ベラ、接客しなくても良かったのに」



「ちょっと罪悪感がな…。あれ、俺たちの予定もうない?」



 格子状の枠の中に、時間と、その時間に接客をする人の名前が書かれた、簡単なスケジュール表。俺と咲桜の名前は先程の時間で終わり、この後は自由時間のようだ。



「自由時間…やることないな」



「じゃあさ、ベラ。他のクラスのとこ見に行かない?」



「他のクラス?あぁ、劇やらお化け屋敷やら、色々あったな」



「うん!行こ行こ!」



 テンションの高い咲桜は、俺の右手を引いて学校の敷地内を探索。俺たちのクラスは学校の室内を使ったが、他のクラスは、中庭やグラウンドなど、外にも出し物を展開しており、全てのクラスを回るには相当な時間を要する。





 そうして咲桜に連れられて来たのは、体育館入口。


 入口前には看板があり、『真紅の女王と群青のあなた』と書かれている。どうやら咲桜は、劇を見たかったようだ。



「あ、これ丁度そろそろ始まる時間じゃない?早く中に入ろっ」



「お、おぉ」



 またもや咲桜に腕を引かれ、薄暗い体育館内へ。



「この度は、真紅の女王と群青のあなたへお越しいただき、ありがとうございます。この劇は、クラスの全員で展開を考えた結果、王道の恋愛物語となりました。是非、お楽しみください!」






 ――――――――――――――――――――――



「あなたのその群青の瞳は、私の心を甘やかに溶かしてくれました。私の真紅の女王という通り名も、あなたは真摯に向き合ってくれた。私は、貴方を愛しています」



「例えこの身が滅びようとも、真紅に染まろうとも、貴方と共に過ごすことが出来れば、僕はそれだけで幸せです。僕はあなたと、永遠の時を過ごしたい。僕も、あなたを愛している」



「こうして、真紅の女王と、群青の瞳を持つ村人は、お互いの生涯を、相手のために過ごしました。真紅の女王の所以である、『女王を愛すると狂う』という噂も、彼らの前には関係ありませんでした。彼らの間にはその後、女王の後継者となる、美しい娘が誕生し、三人で幸せに暮らしました。めでたしめでたし」



 沸き上がる完成。止めどなく会場に響く拍手。俺もその中に加わり、物語の完成度、演者の高い技術力に対して、拍手を送る。


 隣の咲桜を見てみれば、瞳から頬にかけて、一筋の涙が滴っている。そういえば咲桜は、こういった物語が好きだったな。余程内容が心に響いたのだろう。





「あー、良かった〜。真紅の女王も幸せになって、群青の瞳の村人も報われて〜。ハッピーエンドって最高だよ〜」



「そうだな。泣いてたもんな」



「う、うるさいよっ!ほら私恋愛漫画好きだから!それのなんか、アレだから!」



「後半何も分からん」



 咲桜って恋愛好きだったのか。あぁ、そういえば、読んだ漫画は殆どが恋愛ものだったな。






 ──咲桜は現実の恋愛って、どう思ってるんだろうか?




 いや、まてまてまて。何考えてるんだ。早く思考を切り替えねば。



「ねぇねぇ」



「ん?どうした?」



 無駄な思考を遮断する事に専念していると、不意に咲桜が話しかけてきた。



「ベラって、恋愛した事ある?向こうで」



「あー、ん!?」



 と、突然そんなに事を尋ねられ、先程の思考が脳裏に過ぎる。カリステアではそもそも人との交流が少なかったし、俺にはもう咲桜が…いや、ダメだ。父さんに頼んだ()()が、成功するとは限らない。やはりこの想いは…。



「ないかな。まぁ今は咲桜がいるし」



「ないかー。──え?」



「え?あっ──」



 おい、俺は今何と言った?今は咲桜がいる?何故そんなこと行ってしまった?なぜ、なぜ、なぜ…。



「ベラ、それって…」



「まて、今のは、その、えっと──」



 なんて言おうか。なんと言えば正解だ?どう言えば今の発言を撤回することが出来る?


 いや、出来ない。隠し事は、いつまでも隠し通すことはできないんだ。



「ベラ…?」



「その、ままの、意味だ。」



「──!」



「でも、待ってくれ。返事はまだだ。どうせ断られるだろうから。だから、返事は、また時間が経った時に聞きたい。ごめんな」



「あ、いや、えっと、その…。じ、じゃあ、待ち、ます。はい」



 早口に言い、咲桜も吃りながら返事をする。これから、俺たちはどう接すればいいのだろうか。



 ――――――――――――――――――――――


「それじゃ、文化祭も名残惜しいが終わりだ。お前ら、浮かれて事故とか起こすなよ。じゃあ片付けお疲れ様。解散」


 そうして時間はあっという間に過ぎ、文化祭は幕を閉じた。



「…ベラ、帰ろっか」



「あ、あぁ…」






 これからの俺たちの関係を、改めさせながら。

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