第52話 開店、リバーシブルカフェ
その後、リバーシブルカフェは、他クラスを圧倒する盛況ぶりを見せた。
他クラスは、『お化け屋敷』や『研究発表』、『劇』などをやっていたが、客の数は圧倒的に俺たちのクラスが多い。現在俺は接客中だが、ちらと廊下を見たところ、三十人程の列が出来ていた。午前中ということもあってか、客が所望するのは朝食に適している軽食。咲桜が先程作っていたパンケーキや、サンドイッチなどだ。
そういった客の需要が、ばっちりこの店に当てはまったようだ。
「ベラ、二番席にこれ運んで〜」
「了解」
「いやそこは分かりましたわ、でしょ?」
「言うか!」
裏方から咲桜の指示があり、接客を終えた俺は裏方へ。そこで渡されたパンケーキを持って二番席へ。
「お待たせしました。パンケーキです」
「ありがとう。可愛いねぇ」
「男ですけどね」
「似合っとるよ」
と、軽く客と言葉を交わしながら接客するのが俺のやり方だ。他のクラスメイトは料理を渡して終わりのようだが、それだけでは足りないと思い、こうして会話をしている。
現在開店から一時間しか経っていないが、この接客方法が幸いしたのか、俺の人気が結構出ているらしい。咲桜が言ってたので、信憑性はある。
と、また指示があり、次は一番席へ。今度は三番席。エトセトラ…。
「ふぅ…疲れた」
「あと一時間、頑張ろうね」
残り一時間、この疲労ではまだ行けるだろう。というか、今日の運ぶもの全てパンケーキなのだが、なんだ、パンケーキってそんなに人気なのか?
などと考えている間にも、オーダーが入る。さて、次は二番席か。
足早に二番席へ向かう。と──
「え、美桜子さんと健蔵さん!?」
「あぁ、折角の文化祭だからな。行かないといかんだろう」
二番席にいた客は、なんと健蔵さんと美桜子さん。多少驚いたが、健蔵さんの言葉で納得。仕事のことは…いや、聴かないでおこう。
「にしてもイュタベラ君、メイド服似合ってるわねぇ。女の子と間違えられたんじゃないの?」
「あー、さっきご飯に誘われました。男だって言ったら『そういえばここ男がメイド服着るんだったな』とか呟いてそそくさと出ていきました」
「なにそれおもしろ」
先程の男客のことを話すと、暖かい目で見られた。なんか腹立つ。
「それで、注文はどうしますか?」
「イュタベラ君、そこは『ご注文はいかがいたしますか、ご主人様?』でしょ?」
「なるほどこの親にしてこの子ありとはこの事か」
咲桜と同じベクトルの助言を無視し、今日で何度目かのパンケーキの注文を裏方へ。
「お待たせ致しました〜パンケーキ二人前です」
「ご主人様は…」
「言いません」
「でも…」
「言いません」
なぜこうも親子揃って…。はぁ。なんか疲れたなぁ。あと三十分か…。
頑張らねば…。
「あ、これ美味しい!サクが作ったの?」
「あ、はい。裏で作ってます。どうも紳士服姿を見られたくないみたいで、一応着てはいるんですけど。ずっと料理してます」
「いいお嫁さんになると思わない?」
「あぁ…はい…そうで、す…ね…」
疲労が溜まったのだろうか?少し視界がぼやけてきた。眠気も凄い。
「イュタベラ君?」
「は、ぃ…」
そこで、意識は途切れた。