第51話 文化祭開幕
そんなこんなで、いよいよ文化祭当日…。
高校等は数日にかけて文化祭が催されるらしいが、ここ、芽吹中学校は一日のみの開催となっている。その分、文化祭のクオリティは高校に引けを取らない。勿論、取るつもりもない。
そして、喫茶店開店前のこと…。
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「ベラ、そろそろ準備しないとね」
「分かってるから更衣室から出てくれ。ニヤニヤするなこっちを見るな」
開店一時間前となった教室内はざわついており、ピンと張りつめた空気が、生徒全員の緊張感を表している。教室は、馴染みのある勉強机や椅子、教卓などが取り除かれ、その分スペースが広い。客も十五人ずつ程なら余裕で入るようになっている。
また、これは全校生徒共通なのだが、各生徒の保護者には、生徒から事前に割引券が手渡されている。その割引券と各生徒によって、客が一人も来ないということは必ずと言ってもない。
今日一日、頑張らなければ。
幸いにも俺の仕事は午前中。午前九時から午前十一時までの為、午後からは文化祭をまわる時間がある。咲桜も俺と同じ時間なので、仕事が終わったら誘おう。
──さて、時間稼ぎはここまでとして、覚悟を決めなければ。
「──はぁぁぁぁ…」
長くため息を吐いて、目の前、壁にかかっているメイド服に手をかける。それを慣れた手つきで着用し、更衣室を出る。性別逆転喫茶、『リバーシブルカフェ』のメイドとして、頑張ろう。
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「…いつ見ても尊い」
「咲桜、俺の姿じゃなくて、目の前に集中しろ。そのパンケーキが焦げたらどうする」
「大丈夫。私、そこのとこ両立出来るから」
「一生しなくていい」
などと、裏方で呑気に喋るが、開店までの残り時間は少ない。裏方には簡素なキッチンがあり、今は咲桜がパンケーキを焼いているところだ。ほのかに甘い香りが室内に広がる。ちなみにこれは俺と咲桜の朝ごはんだ。早朝から準備を手伝ったため、朝ごはんを食べていない。
「よし、できた!ベラ、一緒に食べよっ」
「はやく食べないと文化祭に間に合わないからな」
そうして朝食をとり、俺と咲桜は裏方の幕をくぐり、廊下へ出る。そこには俺らのクラスメイトの姿があり──
と、その時。チャイムの音が室内に響いた。
『お待たせ致しました。ただ今より、第72回芽吹中学校文化祭を開始致します』
その直後、いや、ほぼ同時だ。
「リバーシブルカフェ、開店で〜す!」
「スイーツ、軽食、いかがですか〜!」
「男子のメイド服、女子の執事服、どちらも眼福で〜す!」
「おい最後の要らないだろ」
「まぁベラ、そう言わずに」
こうして、文化祭が幕を開けた。