第50話 文化祭前日
そうして日々は過ぎていき、十月に入った。文化祭前日だ。今日まで毎日、準備をしてきた。内装の飾り作り、その飾り付け、テーブル、椅子等の改造、配置。メニューの見直し。そして──
「…咲桜、本当に明日これ着て接客するのか?」
「ベラ、ここはするのか?じゃなくて、するんですか?でしょ!うわぁ、似合ってる…。ウィッグで黒髪長髪に変えてるけど、違和感ない…。メイド服も着こなしてるし…。私より似合うじゃん。ムカつく」
「理不尽だしそんな口調にはしない」
現在、七時間目の中盤。俺は教室で、一昨日完成したメイド服を着ている。勿論、そういった趣味ではなく、咲桜にせがまれたからである。断じて女装趣味などない。
俺は誰にどんな言い訳してるんだ。早く脱ごう。
そう思い胸元のボタンに手をやると、咲桜がストップをかけた。
「え、もう脱ぐの?ダメだよ、皆にみて貰わないと」
なるほど、ここは地獄か。現在は教室内にセットした裏方にいる為、ここに居るのは俺と咲桜の二人だけだ。しかし、幕を挟んで向こう側には、最終確認として生徒が数名、設備を検査しており、残りの生徒は適当に雑談をしている。
咲桜は、この幕をこの状態のまま超えろと言ってるのか。なるほど、咲桜は天使ではなく悪魔だったのか。
「絶対に嫌だ」
「ツンデレありがとうございます…」
「なぜ感謝する、なぜ土下座する」
明日が心配だ…。
「そんなこと言うなら、まず咲桜がこれ着てみろよ。恥ずかしいぞ~」
「え、私!?私は着る必要ないから!性別逆転喫茶だし」
「ぐ…」
「はい、躊躇ってないで早く皆に見てもらお。人に見られる練習」
「世界一したくない練習だな…」
しかし、こうなったら覚悟を決めるしかない。俺は立ち上がり、黒く長い、清楚な感じのロングスカートをはたく。そして、首元の赤いリボンを正した。
「…ふぅ。ちょっと待って、心の準備を──」
「うるさい。はいバーン!」
「あ──」
やはり悪魔だった。幕の前に立ち、深呼吸する間に、咲桜は幕をばっと広げ、すぐさま俺の背中を押した。
その音に、教室内の生徒の視線が、全てこちらを向く。そして数秒後──
「え、それイュタベラくんよね?可愛い!」
「いっつもはクールな感じなのに、照れて顔が赤いけんめっちゃそそられる」
「ありがとう…ございます…」
と、女子の黄色い声が聞こえる。あれ、思ったよりは似合ってるのか?咲桜がおかしいだけじゃなかったのか。
と、女子は良いが、男子はどうだろうか?自分もこれを着るんだから、女子の反応を見て勇気を貰ったならいいのだが。
「…イュタベラなん?転校生の女子が来たんやなくて?」
「めっちゃ美少女やん。こんなん俺着たら嘔吐物処理班用意せないかんくなる」
「うわ、自信なくしたわ。」
こちらも俺への評価は良い方だが、自分への自信をなくしているらしい。大丈夫だ。お前らも絶対着なきゃいけないし、多分誰でも似合う。
そうして、数分後、俺に続いて男子が全員着替えた。俺からすれば皆似合っていたが、女子は笑いを堪えている者が数名いた。
──明日大丈夫か?