第49話 人生初のクッキー作り
翌日、六時間目。今日は六時間目から文化祭の作業の時間がとられている。
「今日から作業課程に入るが、みんな、材料は持ってきたか?よし、いいな。じゃあ各自持ち場について作業するように」
授業開始のチャイムと同時、矢野先生の指示によって皆が作業に移る。
今朝のHRで、誰がどの作業を担当するかの役割決めがあった。料理の試作、衣装作り、内装の飾り製作の三つだ。俺と咲桜、その他八名は料理の試作の役割を担った。その中に、幸いにも料理が得意な人が七人(咲桜を含める)いたため、一人一つ、担当料理を決めることとなった。
しかし、上記の通り、俺は料理が得意ではない。咲桜は「レシピ通りやれば大丈夫」と言っていたが、果たしてそうなのだろうか…?
因みに、俺の担当料理は『クッキー』になった。どうやらこれが一番簡単らしい。因みに手順は紙に書いてあるものを渡されたので、この通りに調理すれば問題は無い…はずだ。
と、色々不安を抱えていると、目的の調理室についた。ここで、料理班は調理をするらしい。
エプロン、三角巾を身につけ、手を消毒して中に入る。
簡素なテーブルが立ち並ぶ室内。その内の一つに、材料を広げる。
クッキーの主な材料は、バター、薄力粉、砂糖、卵。この食材たちは、名前は違うがカリステアにもあったので、再現できそうだ。あとは好みでチョコチップなども加えるそうだが、料理初心者にはまだ早い。
とりあえず、紙にある手順を追って、完成させてみるか。
「えっと、まずは…」
『クッキーの作り方その1.バター、砂糖をボウルに入れて、湯煎する』
…。
……。
「…咲桜」
「ん?どしたの?失敗した?」
「いや、今からやるとこ。で、湯煎ってなんだ?」
「あ、そこからなんだ」
よかった。どうやら咲桜は湯煎を知っているようだ。料理など一度もやったことがないから、こういった専門用語は分からない。咲桜は頼りになる。
「…これを、こうして…はい、これが湯煎。今見せた こと、真似してみて」
慣れた手つきで手本を見せた咲桜。今度は俺が真似をして──
「咲桜、この咲桜が湯煎したやつ使っちゃダメなのか?」
「ダメです〜。自分で頑張らないとダメです〜」
やっぱりか。楽できると思ったのに。
「私も私の持ち場があるから!ベラも頑張ってね!」
そう言って隣の持ち場に戻る咲桜。
その後、手際よく湯煎をし、次の手順へ。
『クッキーの作り方その2.卵を卵黄と卵白で分け、湯煎したバターを入れたボウル卵黄を入れ、かき混ぜる』
これは簡単そうだ。卵を用意し、少し小さめの容器へ割る。しかしこの状態では卵黄と卵白が別れてないため、空のペットボトルを用意。少し凹ませ、飲み口と卵黄を密着。手を離すと、卵黄が自然とペットボトルの中に入る。
「え、ベラそれ出来るの?」
「あぁ、テレビのニュースか何かで見た」
「なのに湯煎は知らないんだ…」
「コンロ爆発させるぞ。」
全く…人は知識を得て成長するんだ。だから湯煎を知らなかったのは仕方ない。うん。
そして、取り出した卵黄をボウルの中へ。そして中をかき混ぜ、次の手順に移る。
『クッキーの作り方その3.混ぜたものに薄力粉を入れて混ぜ、固まったら形を好きなように作る』
「…よし、これくらいか。この作業は早く終わったな」
『クッキーの作り方その4.出来たものをクッキングシートに敷き、オーブンで約十五分焼く』
「で、焼けたのがこれか」
こんがりと焼けており、ほのかに甘い香りがする。
「あ、出来たんだ!ベラ、一つ貰っていい?」
と、隣から咲桜が手を伸ばし、クッキーを一つ摘んで頬張る。
「んー、ひょっほあまはははいあいへほ、はぁいいんああい?」
「すまん、人間が使う言語を喋ってくれ」
「んぁ、だから、ちょっと甘さが足りないけど、まぁいいんじゃない?って」
もごもご食べながら喋る咲桜に、少し頬が緩む。ニュースで見た、『ハムスター』という動物に似ている。
「それじゃ、皆が終わったら試食会、その後細かいとこ決めよっ」
「あぁ、分かった」
約一時間後試食会が行われ、俺のクッキーがダメ出しされたのは、今となっても恥ずかしい記憶だ。