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誰か異世界の常識を教えて!  作者: 三六九狐猫
第五章 家族旅行in長崎
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第45話 名残惜しい帰宅


 ──夜中。


 背面には咲桜、前方には夜景が広がっている。実は、眠れないのだ。先程温泉の前で寝たからだろうか?


 にしても、今日でここともお別れか。


 思えば、一日で色々あったな。


 ホテルに荷物を置いて、そのままホームテンボスに行って。


 牢獄病棟での咲桜、可愛いのは変わらないけど、少しかっこよかったな。


 ジェットコースターは…二度と乗りたくない…。


 咲桜の名前の由来、凄く素敵だったな。


 土産もいっぱい買ったし、枕投げも楽しかった。



「また、ここへ来たいな」



 漆黒の闇に呑まれた部屋の中で、一人そう呟いた。


 その声は、静かにこの部屋に木霊し、やがて音は消える。



 さて、そろそろ寝ないと、明日起きれなくなるな。



 そうして、ぎゅっと目を瞑った、その時。



「うん、また来ようね」



 ひそひそと、先程の俺の独り言に返答する声が、またこの部屋に響く。声の出処は、俺の背中、咲桜だ。



「起きてたのか?早く寝よう」



「寝れなくて。──もう少し話さない?」



 後方で、もぞもぞと動く気配がする。参ったな。今眠気が襲ってきたのだが。


 まぁ、美少女と、それも咲桜と一緒に寝る機会なんてそうそう無い。頑張って起きとくか。



「咲桜って、他の男子とこうして寝たことあるのか?」



「ななな!?そんな事な──」



「健蔵さんたちが起きるぞ。もう少し声量落とそう」



「あぁ、ごめん…。って、ベラもベラだよ。いきなり何言ってんの!?」



「すまんすまん、どんな反応するかなって」



 布団の中で俺の背中がポカポカと叩かれる。不思議と、どんな表情をしているのかが分かる。


 脳内の咲桜の表情を愛おしく思いながら、俺は話を続ける。



「明日で帰るのか。色々あったが、いざとなるとあっという間だな」



「そうだね。ベラが意外とジェットコースター苦手なのも分かったし、今後ずっとこのこといじるね。手始めに夏休みが終わったらクラスの全員に言おうかな」



「やめてください」



 クラスの皆が俺の事をどう思っているかは分からないが、少なくとも俺への印象がガラリと変わることは目に見えてわかる。



「──。」



「ベラ?寝ちゃった?」



「──んぁ、あぁ、どうした?」



 まずい、さっきまでは寝たくても寝れなかったのに、寝たくない時に限って眠くなる。この現象に名前をつけてやりたい。



「もう、今寝たらほんとにクラスの人に言うから」



「マジでやめてくださいお願いします」



「じゃあ、一つだけ言うこと聞いてくれる?」



「──」



「ベラ?」



「──んぁい、寝てないっす寝てないっす」



「よろしい。それで、お願いだけど──」



 まずい、眠すぎる。今にも寝てしまいそ──



「──」



「──ベラ?」



「──」



「寝ちゃったの…?」



「──」



「私のお願いはね」



 睡魔によって朧気な意識。その掠れた意識の隅で、咲桜の声がやけに響いて聞こえる。


 既に声は出ない。あと数秒で眠りにつく。はて、咲桜のお願いとは…。



「ベラと、ずっと一緒にいたい」



 そして背中に感じる、暖かく、柔らかな感触。これは、どういう事だ?一体何が──。






 そこでぷつりと、意識が途切れた。


 ――――――――――――――――――――――


「あ〜、長崎とももうお別れかぁ。早かったなぁ」



「あなた、それもう朝にして五回くらい聞いたわよ」



 目が覚めると、健蔵さんと美桜子はもう起きているらしく、何やら他愛ない会話をしている。


「──」



 一方咲桜は、まだ寝ているようだ。


 ──昨夜のアレは、何だったのだろうか?



 後ろから抱きしめられたかと思ったが、起きた時点で咲桜は離れている。それに、あの言葉…。


 夢だったのだろうか?だとすれば、随分と気の抜けた夢だ。ずっと一緒にいたい、なんて、咲桜が言うと思うか?いや、少なくとも俺に対してはそんな事言うはずがない。


 咲桜は優しくて、気配りもできて、可愛い。俺も一緒にいることが出来るのなら、そうしたいところだが。現実的に考えて、アレは夢だと考えるのが妥当だろう。



 そう結論付け、朝の支度を済ませる。



「んぁ…」



 着替え終え、朝食をとるために咲桜を起こそうとすると、不意に咲桜が目覚めた。健蔵さんと美桜子さんは、窓からの風景を堪能するため、咲桜が起きる間椅子に座っている。



「あ、おはよう咲桜」



「んぁ、おあぉ…」



「うん、おはよう」



 やはり、昨日の事は夢だったのだ。咲桜は何も気にしていない様子で上体を起こし、目を擦る。



「んぁ〜。あ、あ、あ?」



 と、咲桜が当然、ゼンマイの壊れた機械のように同じ音を口から漏らす。



「あ、あー、あ…」



 途端、赤く染る顔。どうしたのだ?



「あのぉ…」



 上目遣いにこちらを見る咲桜。その表情は、羞恥心を映し出していて。



「昨日の夜、何かあった?」



 と、おずおずとそう尋ねたのだった。




 ――――――――――――――――――――――


 先程の咲桜の質問ははぐらかし、朝食を済ませた俺たちは、帰る支度をしていた。とはいっても、俺はもう終わったので、今は外の風景を見ている。



「はぁ、今日で終わりとは、少し名残惜しいな」



 海の見える、美しい長崎の風景を堪能しつつ、そう零す。すると、窓にこちらに近づく影。咲桜だ。



「ベラのそんな表情、初めて見たかも」



「ん?どんな顔?」



「なんか、寂しそうな顔」



「あー、確かにな」



 確かに、日本に来てから寂しいと思ったことはない。それも、咲桜たちのお陰なのだが。


 帰る場所があって、いつも咲桜がそばに居てくれる。だから、寂しいとは思ったことは一度もない。


 ──なるほど、ということは、俺は長崎を離れるのが寂しいと思っていたのか。



「もうここを出るとなると、寂しい気持ちはある」



「うん」



「でも、いつかまたここに来たいな」



「──!うん、うん!」



 表情を明るくした咲桜が、ぶんぶんと頷く。



「サク、イュタベラくん、準備出来たわよ。帰りましょう」



 美桜子さんたちも、準備が終わったようだ。



「わかったー」

「分かりました」



 それに返事をして、もう一度、窓の方を振り向く。



 この風景は、必ずカリステアで伝えよう。



 そう、心に決めた。


 ――――――――――――――――――――――




 そして、これは帰宅後の余談なのだが。


 フラワーロードで買った、二輪のバラ。日本では、花には花言葉というものがあるらしい。花の一つ一つに意味があると、咲桜は教えてくれた。



 咲桜に渡した、一輪の赤いバラ。


 その花言葉を教えてはくれなかったが。



 咲桜は顔を赤くしつつ、とびきりの笑顔で、



「…ありがと」



 そう言った。

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