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誰か異世界の常識を教えて!  作者: 三六九狐猫
第五章 家族旅行in長崎
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第44話 枕投げ大会


「よし、じゃあルール説明だ。枕は二つしかないから、ハンデとして美桜子と咲桜にやろう。イュタベラくんと僕は、まずは避ける事に専念。幸い部屋は広いから、初期位置は四隅だ。そこから踏み込んで投げるのはいいが、意図的に近づくのはなし。一度でも当たったらそこで終了、その場で待機。また、一人目が脱落したら、その枕は没収。投げられた枕を掴んだり、顔に当たったりしたら、セーフだ。これでOK?」



 枕投げを企画した健蔵さんが、ルールを決める。部屋はスイートルームということもあって少し広く、自由に動ける程度にはスペースがあった。


 その健蔵さんの説明を聞き、手を挙げたのは咲桜だ。



「そういえば、私からやり出してアレだけど、他の人に迷惑かからない?大丈夫?」



 確かに、それは当然の疑問だ。部屋は少しは広いとは言え、壁などに防音材は無い。迷惑は掛けたくないが…。



「あー、それなら…」



「サク、それなら大丈夫よ。お父さん、貸切にしてるから。他のお客さん見てないでしょ?」



「え!?」

「ん!?」



 その言葉に俺と咲桜は驚き、声を上げる。そういえば、温泉にも誰もいなかったし、他の客がいる気配もない。健蔵さん、どんだけお金奮発したんだ…。



「え、か、かしき…え!?」



「咲桜、落ち着け。貸切にした訳じゃなくて、たまたま貸切になっただけだよ。」



「あれ、でもお父さん予約の時に貸切にって…」



「美桜子?」



「はいはい、ごめんね、ふふっ」



 これは、どちらを信じればいいんだ?もう健蔵さんが怖くなってきた…。



「と、とにかく!そこは心配しなくていいよ。もうこのことは考えないようにしよう。ね?」



「あ、はい…」



 咲桜にそう言い聞かせ、咲桜も釈然としない様子でそれを承諾。



「それじゃあ、枕投げ始めるぞ。位置につこうか」



 その言葉で、ルール通り四隅に散らばる。




 そして、高峰家枕投げ大会の火蓋は切られた。


 ――――――――――――――――――――――


「よし、それじゃあ開始!」



 健蔵さんの掛け声により、枕投げが始まる。俺の両隣は右側に咲桜、左側に美桜子さん。向かいには健蔵さんが、同じく枕を持った二人を交互に警戒し、いつでも来い、と隙を見せない。



 ──初めに動いたのは咲桜だ。



「うりゃ!」



 可愛らしい掛け声と共に、踏み込み、投げる。対象は──、



「早速俺かよ…さっきのこと根に持ってたりして…」



 目の前に迫る枕を、両手で掴んでキャッチ。落ち込む咲桜に反撃を試みるが、美桜子さんを警戒するため、今は防戦に徹する。




 動かない戦況にしびれを切らし、美桜子さんが健蔵さんに投げる。健蔵さんはそれを、あろうことか片手で──



「あ」



 迫り来る枕を右手で受け、枕はそのまま自由落下。健蔵さんの足元へ。



「…カッコつけようと思って失敗したら、こうやって最高にダサいぞ。イュタベラくん、気をつけるんだ」



「いや、俺はそんな事しないけど…」



 開始一分、健蔵さんアウト。



 落ちた枕は没収され、残る枕は俺の手にある。さて、どちらを倒そうか。


 咲桜──は、とられた枕を取り返そうと俺を警戒している。一方美桜子さんはといえば。



「やったー!当たった!私もしかして才能ある?」



 完璧に油断している。これはチャンス。



「んっ!」



 踏み込み、枕を美桜子さんに向かって投げる。これで残りは俺と咲桜の一騎打ち──



「イュタベラくん、甘いわね咲桜もイュタベラくん見すぎよ!いくら好きだからってそんなジロジロ見るんじゃありません!」



 油断しているかに見えた美桜子さん。浮かれているその足元を狙ったのだが、美桜子さんは完璧な身のこなしで枕をヒールキック。上がった枕を掴み、流れるように咲桜へと枕を投じる。当然咲桜は俺を警戒していたため、迫る枕に反応出来ず…。



「あぃたっ!もう…って、お母さん!べ、別に好きだから見てたわけじゃ…」



 呆気なく脱落。残るは俺と美桜子さんの一騎打ちだ。


 枕はジャンケンの結果、美桜子さんの手に。警戒心を高め、動きを観察する。



「さて、イュタベラくん。歳上に花を持たせようか」



「あ、別にいいですよ。早く寝たいし」



「そこは対抗心燃やそ?」



 正直、今ベッドに横になれば、三十秒以内に寝れる自信がある。あぁ、早く寝たい…。



「隙あり!」



 眠い眼を擦っていると、その声と同時に枕を投げる音。それを反射で掴み、美桜子さんの方へ投げる。



「わ!イュタベラくん怖い…」



「え、え?何が起きたの?ベラ?お母さん?」



 そのカウンターを美桜子さんは華麗にキャッチ。咲桜は何が起きたのかわからず、目を白黒させている。



「こうなったら…サク、そんなにイュタベラくん見つめないの!」



 すると、枕を持った美桜子さんは、いきなり咲桜へと話題を向ける。さっきもなんか言ってたな…。



「いや、お母さんだから!見つめてないから!てかなんで今そんな話…」



「イュタベラくん好きだからってそんなに見ないの!イュタベラくん照れちゃうよ?」



「なっ!?」

「へっ!?べ、別にベラが好きって…その…あの…」



 咲桜が俺の事が好き?いや、流石にそれは…。もしそうだったなら嬉しいが、残念ながらこの世の中にはそんな上手い話があるはずが…



 ──ドスッ



「へ?」



「あ…」



 鈍い音。足元を見ると、純白の枕。まさか…



「ほら、そんなにサクが見つめるから、()()()()()()()()()()()()()じゃない」



 ──これが狙いか…。俺を動揺させ、その隙に枕を投げる、と。その為に咲桜を使って…いやはや、美桜子さんは頭が切れるな。こりゃ一本取られた。



「え、お母さんその為だけにそんなこと…その…私が…」



「あ、イュタベラくん、作戦とはいえ、私が言ったことは本当だからね」



「お母さん!ちがう、違うから!ベラ、お母さん嘘つき!信じちゃダメ!」



「えぇ〜。お似合いなのに」



 おっと、親子喧嘩始まるか?母と子の喧嘩の火蓋が、今切って落とされ──



「はいはい、その辺にしとこ。それで美桜子。誰と寝る?そろそろ僕も眠くなっちゃった」



 直前、健蔵さんが仲裁に入る。枕投げ大会は終わったので、あとは寝るだけだ。俺も寝たい。



「そうね、早く寝ましょ。咲桜も、いつまでもくよくよしてるとその内取られるわよ?」



「むぅ…」



 咲桜の方は納得していないが、今は仕方ない。早く寝よう。そろそろ限界だ。



「じゃあ…」



「僕?咲桜?それともイュタベラくん?」



「咲桜とイュタベラくん一緒に寝ましょう」



「え!?」

「ん!?」



 あんな話をした後で?咲桜と?一つのベッドで?いや確かに何もしないけども。しないけどもそれはどうなのだろうか?



「敗者に口出しは出来ません!みんなおやすみ!」



 そして部屋が暗転。健蔵さんと美桜子さんは入口側のベッドへ。



「えっと…咲桜…?寝るか?」



「し、仕方ないし…ね?うん…」



 お互い暗い部屋で顔を赤らめながら、ベッドに入った。

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