第43話 滲み出る闘志
その夜──。
温泉から戻った俺と咲桜は、健蔵さん、美桜子さんを混ぜて『トランプ』という物で遊んだ。トランプとは、『クラブ』、『ハート』、『スペード』、『ダイヤ』という四種類のマークがあり、その四種類にそれぞれ1〜13までのカードがある。それに加えて『ジョーカー』という何にも属さないカードが二枚入っており、全部で54枚のカードの束のことを指すようだ。
俺達がしたのは、『ダウト』というゲームだ。ダウトとは、初めに順番を決め、最初の人から順に1のカードから出していく。カードを出す際は、自分の出すべきカード(最初の場合は「いち」、その次の人は「に」)を声に出して、裏向きでみんなの輪の中心におく。そうして順番通り置き、13のカードを起き終えたらまた1から順に。そうして自分の持ち札が無くなれば勝ち、と言ったゲームらしい。
しかし、このダウトというゲームの醍醐味は、『自分の出すカードの数字を偽る』ことにある。順番通りカードを出すのは良いが、必ずしも自分の番に決められた数字が持ち札にあるとは限らない。そこで、自分の出す数字を偽って、中央に置くことが出来る(例えば6がない時に6以外のカードを出すことが出来る)。そして、置いた人以外人は、その置かれたカードが、本当に決められた数字なのか、それとも偽っているのかを当てる。決められた数字を置いたと思ったら、そのまま次の人の番。嘘だと思ったら「ダウト」と言い、カードを置いた人はそのカードを見せる。
もし数字を偽っていれば、カードを置いた人は、その置いたカードと、元々置かれていたカードを全て持ち札に加え、次の人の番へと続く。
数字が合っていれば、「ダウト」を宣言した人が、上記と同じ行動を取る。
まだ細かいルール等はあるが、ざっくり説明するとこんな感じだ。
俺は勿論初めてだったので、序盤は他の三人に負けていたが、途中から咲桜にだけは勝てるようになった。
というのも、このゲームをやって気づいたが、咲桜は嘘をつく時、決まって右手を開閉する。そのことに気がついた俺は、咲桜がその行動をした時に「ダウト」の宣言をして、咲桜の持ち札を半永久的に減らさせないことに成功した。
──まぁ、その後めちゃくちゃ睨まれたけど。怖かった。
そして時は流れ、もうすぐ寝る時間だ。
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今日は沢山遊んだから、少し眠気が強い。さっきも寝ていたが、それだけで目が覚め、夜眠れなくなるといったことはなかった。あぁ、今にでも寝てしまいそうだ。
高峰家三人衆は、現在歯を磨くため、洗面所にいる。俺は早めに済ませたため、後は寝るだけ。
そうしてベッドでウトウトしていた矢先である。
「どーん!」
「うぇぶっ!」
朦朧とした意識で横になっていると、突然空から謎の物体が、顔面に飛んできた。しかし、その物体に殺傷能力はなく、逆にとてもふかふかだ。
──そう、これは枕だ。
「ベラ、まだ寝るのは早いよ!」
犯人発見。対象咲桜。対象は洗面所の扉で身を守っている模様。
「咲桜…俺は今猛烈に眠いんだ…」
「知ってるかいベラ!旅館の夜で枕投げをする。これは日本の『常識』だよ!」
右手をひっきりなしに開閉している。嘘かよこんにゃろ。
「ほう…いいんだな咲桜?俺の運動能力は日本人よりは高いぞ?」
「ベラ、目付き怖い…」
悪役の演技をしながら、先程投げられた枕を片手に咲桜の方へ。狙いを定め、振りかぶり──
「おっと、娘に手出したさせないぞ!」
「ちょ、あなた、何言ってるの?早く寝るわよ」
投げようとした直前。健蔵さんが洗面所から飛び出し、咲桜の前へ立ち塞がる。両手を広げて咲桜を守る、防御体勢をとっている。それをまた洗面所から見ていた美桜子さんが、呆れた声でため息混じりに健蔵さんに一言。ノリがいいのか悪いのか…。
「はい、三人とも早く寝るわよ。あれ、でもベッド二つしかないわね…」
洗面所を出た美桜子さんが、首を傾げてそう呟く。
あぁ。それが問題だ。先程は睡魔に負けて寝ようとしたが、ベッドは二つしかなく、俺らは四人。二人ずつベッドで寝るか、二人が床で寝るか。
勿論俺は床で寝るつもりだ。さっきベッドで寝ようとしてたのは無し。
「さて、イュタベラくんが床で寝ようと思ってるだろうが、そうはいかんよ」
「健蔵さん、心読めるんですか?」
「ここは、枕投げで勝負と行こうじゃないか。一位と四位、二位と三位が同じベッドで寝よう。拒否権は無いし、美桜子もやるからな」
「じゃあ私は棄権するから四位ね。あなた、適当に頑張って」
急遽始まろうとする、枕投げ大会。乗り気ではない美桜子さんの言葉に健蔵さんが悲しい顔をしているが、咲桜の方はやる気満々。俺は早く寝たい。
「…仕方ないわね。今日だけよ?サク、イュタベラくん、油断しないこと」
「それでこそ美桜子だ」
健蔵さんの表情を見て少し悩み、美桜子さんも参加を宣言。こうして今晩の、寝床をかけた戦いが始まる。