第41話 ホテル内にて
「ふー、遊んだ遊んだー!」
ホテル内にて。ホームテンボスで遊び尽くし、部屋に入った直後のこと。咲桜はぼふっとベッドに飛び込み、四肢を投げ出して仰向けになっている。こうして人はダメになるのだろうか…などと思いつつ、俺は荷物を少し整理していた。
ちなみに、健蔵さんと美桜子さんは、一足先に温泉に入った。俺らは留守番で、二人が帰ってきたら温泉に行く。
「ベラぁ、もう明日出る準備してるの?もうちょっと楽しもうよぉ」
「いや、まだ準備とは言えないな。準備しやすいように準備している…準備の準備的な感じだ」
「──なんか、ベラって損な性格してるね」
「今更か?出来る兄とマスコットの弟がいるから、俺の立ち位置は元々損してる感はあるな」
なぜこんな話をしているのだろうか。泣けてきた。
と、若干自爆した所で、咲桜は「ん?」と上半身を起こし、ベッドに座った。
「ベラ、兄弟いるんだ」
驚いた顔でそう質問する咲桜。そういえば言ってなかったな。
「一応、兄のワイガーは今年で成人…あ、日本はもうすぐで18歳が成人か。カリステアは16歳で成人なんだ。二歳上の兄だよ」
そういえば、今はどうしているだろうか?俺が日本に召喚されてから、心配しただろうか?いやまず、俺が居ないことに気づいたかだな…。薄情という事ではなく、父さんの仕事が忙しかったから気づいたかどうか…。
「そうなんだ。じゃあ、ベラももうすぐだね」
「そうだよ。あと二年で成人だ。あ、それで弟はミロットって言ってね。これが──」
「ミロット君が?どしたの?」
「なんか、もう、言い表せないほどに可愛い」
「親バカならぬ兄バカだね」
馬鹿と罵られ傷つくが、これがほんとに、ミロットは可愛いのだ。咲桜にも見て欲しい。絶対「かわいー!」とか言いながら抱きつく。──いや、抱きつかせないよ?
胸中、一瞬モヤモヤしたが、まぁどうでもいいだろう。ミロットは…多分俺が居ないことに気づいてないな。メイド達がいつもこぞって世話してるから、他の人を気にする余裕がない。あぁ、可愛いって罪だな。
「へぇ、兄弟いたんだ…へぇ…」
兄と弟のことを話し終え、少し故郷が恋しくなった。しかし、やはり日本での生活は毎日が楽しい。何より魔獣等が存在しない為、平和だ。
と、感傷に浸っていると、咲桜は「うーん」と顎に手を添え、
「そういえば、私ってベラのことあまり知らないかも」
俺が日本に召喚されてきて二ヶ月。この言葉をきっかけに、健蔵さん達が帰ってくる間、俺は自分語りをしていたのだった。
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「異世界の人って魔法ガンガン使うイメージあったけど、得意不得意あるんだねー」
「そうだな。魔法を全て使える人は、それこそ父さんの幹部の魔道士とかだな。俺も尊敬する人だ」
温泉に行く道中、廊下にて。俺の身内話を終え、感想を述べる咲桜。カリステアの話に興味津々なようだ。いつか連れて行ってやりたいな。
「あ、着いたね。それじゃあベラ、上がったらここで待っててね」
喋っていると、いつの間にか温泉に着いたようだ。入口が二つ並んでおり、それぞれ青色の『男』の文字、赤色の『女』の文字が書かれた暖簾が、扉に掛かっている。
「分かった。咲桜も、上がったら待てよ?先に行くなよ?」
「分かってるって。勿論だよ」
微笑をたたえ、咲桜は赤色の暖簾の扉の奥へ。俺も続いて、青色の暖簾に向かった。