第40話 アムステルダムシティ
そうして、フラワーロードでお互いチューリップを買い、俺は咲桜には内緒で、バラという花を買った。色の種類がいくつかあったが、鮮やかな赤色を選んだ。だが一本だと味気ないので、二本購入。どちらも綺麗な赤色だ。帰ったらサプライズとして渡そう。
そうして花を買っていると、不意に咲桜のスマホが鳴った。
「あ、お父さんからだ。どしたの?──あれ、もうそんな時間?わ、ほんとだ!今から行くね」
どうやら相手は咲桜のお父さん、健蔵さんのようだ。店の中にある時計を見て、焦った様子の咲桜。俺もつられて見てみると、約束の時間丁度、5時半を針が指していた。急がなければ。
「ベラ、聞いてたと思うけど、結構時間経ってた見たい…」
「だな。集合場所はどこだっけ?」
「『アムステルダムシティ』だよ。そこで買い物して、ホームテンボスとはおさらば、って感じ。じゃあ、お父さんも待たせてるし、急ごっ」
「了解」
といいつつ、道中談笑しながら向かったため、到着時刻は遅くなったことは黙っておく。
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「遅いじゃないか。心配するだろ?」
「うぅ、ごめんなさい…」
「すみません…」
集合場所に着くと、腕を組み、仁王立ちをしている健蔵さんに出迎えられた。心配だったんだぞー、とジト目で見てくる。
隣を見れば、美桜子さんの右手には大きな紙袋が。もう買い物は済ませているようだ。
「父さんたちはもうお土産買ったから、好きに見てきなさい。お金はあるか?」
「うん、まだ足りると思う」
「同じく」
「おーけー。それじゃぁ、行ってらっしゃい。父さんたちはもう一回見て回るよ」
そう言って、またもや別行動。咲桜に連れられて、最初の店に入った。
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「これ可愛くない?お揃いにしようよ」
「うーん、可愛い可愛くないがちょっと分からないな…」
咲桜が手に持っているのは、咲桜に借りている小説、『夢の世界で、もう一度』に出てくる、メインヒロイン、ミナが牢獄病棟の横に並んでいるイラストが描かれた物。どうやら小説との『コラボ商品』というもので、『ストラップ』というらしい。そして、俺が渡されたものが、同じ小説のメインヒロイン、ミナの双子の妹、サナが同じように牢獄病棟の横に並んでいるストラップだ。
薄紫色の髪をポニーテールにした、凛々しい目付きをしたミナと、薄桃色をしたショートヘアに、薄青の瞳と薄緑色の瞳を見開いて驚いているサナのイラストを見て、咲桜は可愛いと言った。正直何が可愛いのか何一つ分からない。
「もう、可愛いって。小説読んだでしょ?推しって言ってたよね?可愛いでしょ?」
「いや、あれは咲桜が無理やり言わせたようなものだからなぁ…。うーん…」
以前、この小説を読んだ時、咲桜が「推しキャラ教えて」と聞いてきた。だが、『推しキャラ』が分からなかった俺が咲桜に質問すると、『自分が好きなキャラ』と返ってきた。
だが、しかし。俺は好きなキャラがおらず、物語を楽しんでいた。それを咲桜に話すと、「なんでもいいから、気になったキャラ教えて!」と顔を赤くして怒ったので、仕方なくサナを選んだ訳だが。
「えぇ…じゃあ、私とお揃い、してくれないの?あーぁ、悲しいなー。泣いちゃうなー。あーぁ、ベラが泣かせたー」
「あー分かった分かった!お揃いします!させて下さい!」
「よろしい」
棒読みで睨んでくる咲桜に勝てず、降参してストラップを買うことにする。まぁ、他に買うものも見当たらなかったので、いいだろう。
会計を済ませ、店を出る。後ろから咲桜が着いてくるが、余程満足したのかずっとにやけている。
「咲桜、そんなに嬉しかったのか?」
「うん!だって、『ゆめいち』の推しがコラボしてるし、それに、ベラとお揃ぃ…だ…し…」
語尾が徐々に弱くなり、顔を赤らめる咲桜。にやけているのを自覚したのだろうか。
ともあれ、お互いに欲しいものは買えたので満足といっていいだろう。
数分後、咲桜の両親と合流した頃には、当たりは暗くなっていた。
「さて、それじゃあ帰ろうか」
「じゃあ、帰りましょうか」
健蔵さんと美桜子さんが同時に言い、ホテルへと向かう。
──その帰路で。
「わぁ…ベラ、見て…」
「ん?どうした…って…おぉ、綺麗だな」
「まぁ、すっごく綺麗…」
「来た甲斐があったな」
帰り道、右手に見えたのは、大きな城のような建物に施された、無数の光。『イルミネーション』というらしい。その光が、青、桃、赤、緑、様々な色に移り変わって…。
「──来てよかった」
思わず、そう零れた。