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誰か異世界の常識を教えて!  作者: 三六九狐猫
第五章 家族旅行in長崎
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第39話 フラワーロード


「ここで最後か…綺麗な場所だな」



「そうだね〜。チューリップがいっぱいあるし、その他の花も、夕陽の光も相まって、すごく綺麗」



 ジェットコースター、及びアトラクションシティを遊び、そろそろ日が暮れるだろうかという時刻。現在午後四時。約束の時間は午後五時半なので、あと一時間半ある。


 俺達は、その時間を花の鑑賞に費やすことにした。



「ベラのとこって、綺麗な花、あった?」



「うーん、うちの周りにアミュガベラの花があったくらいかな…。森は魔獣がいて、花とかは荒らされてるから。日本にアミュガベラはある?」



 アミュガベラとは、秋に実を付ける果樹で、花は黄色、採れる実は水色をしている。アミュガベラの実は魔力の安定化を促す効果があり、医薬品として世に出回っている。



「聞いたことないなぁ…。多分ないと思う」



「まぁ、チューリップも、多分カリステアにはないからなぁ」



 一歩一歩、ゆっくりと歩を進め、地に咲く花々を堪能する。仄かな自然の香りが鼻腔を掠め、心身ともに安らぐ。その雰囲気に身を委ねながら、咲桜との会話を楽しむ。



「そういえば、咲桜って花好きだよな?何か理由でもあるのか?」



 ふと、思った疑問をぶつけてみた。咲桜は、妙に花に執着がある気がする。これは、ホームテンボスに来る前にも思った事だ。


 その問いに対して、咲桜は「うーん」と考え込むように右手を顎に添え、俯く。数瞬して、顔を上げるとこちらを真っ直ぐ見つめる。



「やっぱり、私の名前、かな。咲桜って、『桜が咲く』って書くのは知ってるよね?」



 微笑浮かべ、こちらに訪ねてくる。咲桜の名前は、咲桜の私物などに書いているので、よく見る。いつ見ても、いい名前だなと思っている。


 「あぁ」と、短く答え、話の続きを促す。咲桜はこくりと頷き、再び口を開いた。



「桜の花言葉は、『優れた美人』らしいの。それに則って、優れた美人になって欲しいっていう理由でお母さんが名前を付けたの。──でも、桜って、短命なんだよ」



 遠くを見つめ、悲しげな感情を瞳に閉じ込めている咲桜。俺は無言で、話を聴き続ける。



「桜は、12日くらい経つと、半分くらい花弁が散っちゃうの。二週間も持たないんだよ。だから、実は満開の桜が見れる期間は、とても短いの」



 桜は以前、『テレビ』で見たことがある。薄い桃色のその花弁は、純粋無垢な少女が笑っているような、そんな柔らかな印象を受けた。だが、考えてみると、実際にあの花を見たことは一度もない。まぁ、3月くらいから咲き始めるらしいので当然だ。が、実際に見てみたい気持ちはある。



「その儚い生命を、でも精一杯、花弁を大きく開く桜が好きで、その影響で、他の花々も好きになったの」



 疑問の答えを言い終わり、「どう?ちょっとロマンチックでしょ?」と、俺の方を見つめる咲桜。しかし、その表情は、今話した桜と同じような、儚げな微笑が刻まれていた。その表情は、夕陽に照らされ、美しさの極みに達している。



 ──その時、ぶわ、と強めの風が吹いた。



 こちらを見つめる咲桜の、長く美しい黒髪が風で靡き、それに共鳴するように、周りの花々が舞う。遠くに咲いている名前の知らない木に咲いている花が、風で散り、宙を舞う。



 俺は元々、植物には興味が無かった。



 カリステアにいた頃は、俺は自身の鍛錬に日々励んでいた。武術の特訓、魔法の習得、実践訓練としての魔獣の討伐、エトセトラ…。



 そんな日々を送っていたため、今のように、意識して植物を観察したことがまるでなかった。そもそも、そんなことに意味が無いだろうと、毎日花を愛でるメイド長を見ていた。



 しかし今は、いや、これからも、俺はその認識を改める。


 こんなにも、綺麗な物の存在を。こんなにも尊い、咲桜の花に対する思いを、感じて。



 ──それでも、花に対する価値を見出さないなんて、出来るはずがないじゃないか。


 こんなにも、美しくて。こんなにも、儚くて。こんなにも、一生懸命に、花々は生きているんだ。その生命の存在を、無下にするなど、そんなこと、俺はしたくない。





 だから──





「咲桜」



「ん?どしたの?」








「帰りに、花でも買って帰ろう。お土産にして、家で育てよう」



「──うん。やっとベラも、花の良さに気づいたね」

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