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誰か異世界の常識を教えて!  作者: 三六九狐猫
第五章 家族旅行in長崎
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第37話 アトラクションシティ


 と、スリラーシティを少し回ったところで。



「ベラ、次ここ行きたい!アトラクションタウン!」



「んー、確か咲桜はフラワーロードに行きたかったんだったか。それなら近いし丁度いいな。んじゃ行くか」



 苦手なホラーらしかったが、案外咲桜は楽しんだようだ。最初の怯えた表情はどこへやったのか、明らかな『喜』を体現しつつ、次の場へと移動を始めた。




 ――――――――――――――――――――――



「さて、最初はどこ行く?」



「んー、やっぱりジェットコースターかなぁ」



「『ジェットコースター』?」



 聞きなれない発音に、俺は首を傾げる。そんな俺のことは露知らず、咲桜は腕を引いて目的地へ。





 これが、『ジェットコースター』か。何やら鉄骨が二本、その間に何枚もの鉄の板が並べられており、その上を車のような乗り物(人が乗っているため乗り物だとわかった)が凄いスピードで走っている。あのスピードで落ちないのだろうか。



「ほら、ベラ着いたよ!って、結構並んでるね…あ、でも三十分待ちかぁ…どうする?ほか回る?待つ?」



 と、俺がジェットコースターを観察していると、隣で腕を掴んだままの咲桜がそう問いかけた。入口を見てみると、最後尾には『三十分待ち』の立て札を持った職員。なるほど、微妙な時間だ。だがここで引くと次は『一時間待ち』とかになりそうだ。それなら並んだ方が良いだろうか。



「うん、並ぼう。三十分なら待てるし。さ、決めたら早く並ぼう」



 と、今度は俺が催促し、咲桜と手を繋いで行列の最後尾へ。と、並んだ直後。後ろから男女が、俺たちの少し前に割って入った。



「ここめっちゃおもろそうじゃね?」



「えぇ…うち、ジェットコースター苦手…てか、もう並んでんじゃん…」



「いいじゃんいいじゃん」



 どうやら男は乗り気なようだが、女の方は若干渋っている。この男女は、恐らくは恋人同士だろうか?


 てか、こいつら普通に割って入ったけど、これって『常識』なのか?それとも…



「あ、あの…私、並んでたんですけど…」



 と、そう口を開いたのは、割り込まれた客だ。あぁ、やはりこれは『非常識』なのか。



「え?いや、空いてたよな?ここに隙間が。え、なに?難癖つけて自分が前に進もうって?卑しいやつだなぁ」



「ちょ、きっくん、そんな言い方…」



「いやいや、俺は正しいだろ?なぁ、おばさん?」



 言いながら、きっくんと呼ばれた男は、魔獣のような笑みで割り込みされた客を罵倒。おばさんってか、見た目的に二十代の、前半くらいだと思うんだがなぁ…。っと、現実逃避して気を紛らわせていたが、そろそろ怒りが限界値に達しそうだ。あ、今限界突破した。



「おい、お前」



 この輩は流石に見逃しては置けない。実はさっきから、咲桜を握った手が砕けそうなんだ。被害が俺に出てる。



「あ?なんだよガキが」



「割り込むなよ、大人げない。きちんと並んでくれ」



 俺が注意した途端、男は鋭い剣幕で俺を睨む。しかし、魔獣と比べればあんなの可愛いものだ。



「ガキが調子乗ってんじゃねぇぞ?俺は、ちゃんと最後尾に並んだ。それの何が悪い?」



「そうか、最後尾に並んだのか。」



「そうだ。一番後ろに並んだんだ。前の奴らから離れてるんなら、それは列に並んでることにはならねぇだろ?最後尾は俺だ」



「へぇ、そうかそうか」



 男はあくまでも最後尾だと言い張る。それなら、こちらが正論をぶつけるのが筋だろう。



「最後尾の定義をお前が決めてるようだが──」



「あぁ?俺が最後尾、お前らは俺らの後に並んだろ?」



「それなら、最後尾の俺らの後ろにいる職員、この人はなんだ?」



 行列の最後尾には、必ず職員がいるはずだ。俺らもそれを見て後ろへ並んだ。だが、この男は最後尾の職員のことなど気にも止めていなかった。



「そ、それは…うるせぇ!」



「反論できなくなったらうるせぇって…子供かよ」



 知能指数を疑うな…。見た限りだと十九、二十歳あたりだと思うんだが…。



「お前らの方が子供だろうが!」



「いや、精神的にって言う話で…って、そんな事も分からないって、『常識』はずれなやつだな」



「あぁ!?外人ごときに言われたくは──」



「それに」



「んだよ!」



「さっきから、連れのそこの人がいるのに、お前は『俺』としか言ってない。俺らって言ってない時点で、お前はその人のことを思ってないな。その人の顔、見てみろよ」



「あ?何言って…」



 と、男が隣の女の方を見る。



「──っ」



 女は、怒りに満ちた形相で、俺たち──ではなく、連れの男を睨んでいた。その事にようやく気づいたのか、男はバツの悪そうな顔をしたあと、ぶつくさ文句を言いながら列を離れていった。



「ベラ」



「あ、はい」



 その直後、今まで静観していた咲桜が口を開いた。何事かと咲桜の方を見ると、何やら安堵の表情を浮かべており──



「もう、怖かったよぉぉ。泣きそうだった。わざわざ首突っ込まなくてもいいじゃん…」



「あぁ、ごめんごめん。見逃せなくて」



「あのっ」



 と、緊張が解け、膝から崩れそうになる咲桜を抱えると、前方から女性の声が。見ると、先程の割り込まれていた女性だ。



「えと、先程はありがとうございました。助かりました」



「いえいえ、こちらもわざわざ首を突っ込んでしまって…すみません」



 ぺこぺこと頭を下げる女性。咲桜の肩を支えつつこちらも謝ると、「いえいえこちらこそ」と女性も返す。これだと無限ループしそうだ。



「あの、列進みますよ」



 何度も礼を言う女性に、俺は前方を指さして注意喚起。



「あ、すみません、ありがとうございました」



 言って、列を詰める女性。もうすぐでジェットコースターに乗れる。そう列を見て推測し、支えていた咲桜の手を再び掴む。



「大丈夫。ありがと」



「さっきから礼を言われてばかりだな…」



 そう苦笑しつつ、列は着々と進んだ。

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