第32話 家族旅行に行こう
「家族旅行に行こう」
夏祭りが終わり、数日後にそう提案したのは、高峯家の大黒柱、高峯健蔵さんだ。
朝、いつものように咲桜とリビングに降りると、食卓に腰掛けていた健蔵さんが俺たち2人を指さしたのだ。
「え?お父さん、いきなりすぎない?」
いきなりで困惑するのは、どうやら俺だけでは無かったらしい。困り顔をする咲桜。しかし、その質問に答えるのは健蔵さんではなく、高峯家の料理人、美桜子さんだ。
「いきなりなのは分かるけど、別に今日行くわけじゃないわよ。早くて4日後、遅くて来週よ。行先は──」
「あ、それは僕が言いたい。行先は、長崎、ハウ〇テンボスだぞ」
「え!ホームテンボス!?やったっ!!」
行先を教えられた途端、態度が豹変。俺はいまいちピンと来ていないが。
「その、『ホームテンボス』が分からないけど、そんなにテンション上がるところなのか?」
自分だけ分からないこの空気を換気するべく、そんな質問をぶつけてみる。すると、それに答えたのは隣ではしゃぐ咲桜だ。
「ベラ、ホームテンボスって言うのはね、色んなアトラクションがあったり、凄いゲームセンターがあったり、夜にはイルミネーションがあったりして、凄いの!それにそれに、綺麗な花もあるんだよ!」
恐らく過去一でテンションの高い咲桜。最初は根暗かと思っていたが、案外明るい性格だな。
と、不意に過去を振り返りつつ、俺の両肩を揺さぶる咲桜の手を退ける。頭がくらくらする。
「まぁ、そういう訳だから、ホテルの手配が済み次第行こうか。前日には言うから、楽しみにしておいてな」
俺に掴まれた腕を払い除け、再び俺に襲いかかろうとする咲桜を制止しつつ、この場は健蔵さんのこの一言で収束した。
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そして、5日後──。
「よし、じゃあ行こうか!向かうは長崎!」
「「「おーー!!」」」
「お、おぉ…?」
息のあったテンションの高い3人と、その雰囲気についていけない1人は、車に乗って長いドライブ。
───レッツゴー長崎!!
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そんな車内での会話──
「あ、咲桜、そういえばなんだが」
「ん?どうしたの?」
「ホテルとったって言ってたよな?」
「うん、え、そうだよねお父さん?」
「ホテルはとったぞー。良いとことったから楽しみにしとけよ」
「スイートルームだから、ベッドとかふかふかかもよ〜」
「あ、うん、お母さん、お父さん、ありがと。だってよベラ──って、え!?スイートルーム!?」
「そうだよな。それでなんだが──」
「あれ、僕言ってなかったっけ?」
「わざわざ私も言わないわよ」
「スイートルームって…え、お金は!?」
「部屋がいっし──」
「お金なら大丈夫よ。お父さん一応社長よ?お金なら沢山──」
「美桜子、誤解を生むからやめてくれ。まだ会社は小さい」
「え?それにしてはイュタベラくんの転校手続き早かったわね?」
「それは、その──」
「俺と咲桜が一緒に寝るっていう──」
「あぁ、お父さん『一応』社長だもんね、『一応』。」
「咲桜、一応を強調しないでくれ。泣くぞ」
「だから、俺と咲桜が一緒に──あぁ、もういいや。『スイートルーム』が何かは分からないが、楽しみにしておくよ」
そんな会話が車内で流れつつ、長崎へ向かった。