第28話 そろそろ夏祭りらしい
そして、そんな事があった9日後…。
「ベラ、明日はいよいよ夏祭りだよっ!」
「あぁ、昨日も一昨日もその前の日も聞いたな」
もうすぐ夏休みらしい。咲桜も、いつになくテンションが上がっている。可愛い。
「夏祭り行ったら何する?チョコバナナ食べて〜、射的して〜、あ、もちろん浴衣でね!あとそれから──」
──はしゃぎすぎじゃないか?一周まわって何かの病気ではないのかと疑ってしまう。
「夏祭りか…」
祭りというからには、なにか面白いことがあるのだろうが、ここの娯楽はどれも楽しすぎる。カリステア国と比べると、種類、質、全てにおいてこちが勝っている。
しかし、そんな娯楽をやった事があろう咲桜が、こんなにもはしゃぐのだ。期待できる…!!
「楽しみになってきたな…」
「でしょでしょ?でね、ちょっと…」
思わず口に出た想いを肯定しつつ、咲桜が手を後ろにまわして上目遣いでこちらを見る。
「会場の下見に行かない…?花火とか見やすい位置探したいの」
「『はなび』…?」
よく分からないが、咲桜の要望とあらば叶えるほかない。二つ返事で肯定すると、「今から行こっ」と手を引かれ、階段を下る。
「お母さん、ベラと下見に行ってくる!行ってきまーす!」
「へ?あ、気をつけてねー!イュタベラくん、サクをよろしくねー!」
「あ、えっと、はいー!」
ものすごいスピードで玄関を抜け、外に出た。
「会場はこっち!」
そう言って、俺の手は握ったまま走り出す咲桜。
「ちょ、歩きたいんだけど…」
聞こえていない。
仕方なく、咲桜について行くため、スピードを合わせて目標に向かった。
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そして、目的地。
「こんな河川敷あったんだな。知らなかった」
下に流れる川を見ながら、ふとそう呟いた。隣では、キョロキョロと咲桜が何かを探している。
「咲桜?何探してるんだ?」
「花火の打ち上げ場所!何処で上がるか分かったら、見やすい所も自然と分かるでしょ?」
打ち上げとか上がるとかは分からないが、とにかく花火とやらを探しているらしい。
「多分花火があるとこには人がいるはずだから、人が居るとこを探したいんだけど…」
「人なんか居ないぞ?遠くの方にも…ん?あれじゃないか?」
俺も咲桜に倣って辺りを見渡すと、川を挟んで向こう側に、小さいが人影があった。咲桜の探している人だろうか。
「あれは…ただの近所のおばちゃんじゃない?あ、そうだ、あの人に何処に花火があるか聞いてみようよ」
「え、めんどくさ…分かった分かった!俺も行くから睨まないでくれ!」
頬を膨らませ、目を鋭くしてこちらを睨む咲桜。意外と迫力あるな、と思いつつ、橋を渡った。
「あの、ちょっといいですか?」
「ん?なんだい?」
おばちゃんの元に辿り着くと、咲桜は「まって、どう話せばいいんだろう…」と頭を抱えてしまったため、仕方なく俺が話しかけている。おばちゃんは、白髪が所々見えてはいるが、顔はすごく若々しい。40代くらいだろうか。
しかし、髪も目の色も違う俺を不審に思ったのか、その垂れた目で俺の顔をジロジロと見つめている。
「えっと、何かついてますか?」
「──あぁ、ごめんねぇ。外国の方と話すのは初めてでねぇ。で、何の用だい?」
俺が恐る恐る尋ねると、おばちゃんはニッコリと目を細めて微笑み、俺たちの用事を聞いてくれた。
そして、花火の関係者がいないか問いかけたのだが。
「見てないねぇ。ごめんね。でも、明日の花火はここら辺であるから、ここに来ればよく見えると思うよ。若い男女2人なんだ。楽しんできな」
聞いてみたところ、おばちゃんは関係者を知らないようだ。残念。
あれ、というか、若い男女で楽しむって…。
「わ、私たち、そんなのじゃなくて!そう、兄妹!兄妹なんで!」
と、若干傷つくことを、今まで黙っていた咲桜が叫んで、この場は幕を閉じた。
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──夕方。高峰家にて。
「結局いなかったなぁ…」
はぁ、とため息をつく咲桜。あの後も探したのだが、結局見つからずじまい、ただ散歩に出かけただけとなった。
「まぁ、おばちゃんがアドバイスくれたから、良かったじゃないか。明日はあの辺にいよう。」
「うん…」
膝を抱えてリビングのソファに座る咲桜。元気が無くなってるな…。
「咲桜、明日楽しみ?」
もしや明日が楽しみだという気持ちを忘れたのかと思い、そう問いかけると、咲桜は首を横に振った。
「ううん、楽しみ。けど、折角ならベラといい所で花火見たかったなぁって…」
なるほど、俺の為を想ってくれていたのか。体育祭の時の俺のようだが、ここはバシッと言ってやらないとな。
「咲桜、俺は、咲桜と見れるならどうだっていいよ。ありがとう」
「あぅ…。分かった分かった分かりました。もう拗ねません」
と、若干格好つけた感じにはなったが、咲桜も元気を出したようだ。
と、キッチンで夕食を作っていた美桜子さんが、「出来たわよー」と合図する。
それを聞き、俺も咲桜とテーブルにつこうとして──。
「咲桜」
「ん?」
「──明日、楽しみだな」
そう言って、夕食の席に着いた。