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誰か異世界の常識を教えて!  作者: 三六九狐猫
第三章 体育祭
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第27話 ファイナルアンサー


 高峰家は、優しい。俺はこの数ヶ月で、山ほどの優しさを感じた。そして、俺が本当の家族であるかの様に接してくれた。


 だから───、


「「「待ってください」」」


 こうなることは、当然だった。




「──はい」


 リビングを去ろうとしたカリオンだが、高峰家3人の言葉にもう一度席に着く。再びカリステア家、高峰家が対峙し、少し空気が張り詰めるのを感じる。


「まだ、イュタベラ君を預けるに値する信頼を、得ていないのですか?僕たちは」


 少し悲しそうに、そう問いかけるのは、健蔵さん だ。両隣の咲桜と美桜子さんも、同じ心境なのだろう。何も言わず、ただこちらを見つめてくる。


「いえ、そんな訳では…。ここは十分良い所ですし、何より平和だ。ここで過ごす日々は、とても楽しかったです」


 先の問いかけを否定し、にっこりと微笑むカリオン。だが、カリオンは「ですが…」と物悲しそうな表情を浮かべ──


「ですが、僕達はカリステア国から来ました。あなた達からすれば、異世界人、所謂、未知の存在です。それに、僕達は魔法を使うことが出来る。仮にここに留まっておけば、高峰家全員にあらぬ被害を被らせる可能性があります」


 カリオンが今言った事は、俺も先程思っていたことだ。俺達は、魔法が使える。故に、何か不思議な事件が起き、警察沙汰になれば、真っ先に疑われるのは俺達だ。まぁ、俺達が魔法を使えることを知っているのは、この世界では高峰家だけだが。


「それに、先程も言いました通り、僕には国の仕事がある。息子たちにいつまでも任せては置けないのです。イュタベラだけここに残すのは、心配です…」


 と、俯いて喋るカリオン。


 これだけ言われれば、高峰家も諦めてくれるだろう。俺達は、やはり、ここに居るべきでは…。


「──っ」


 そう、勝手に自分で結論付けていたその時、緊迫した空気を割るように、声が聞こえた。


 それは、高峰家──咲桜の、泣き声だった。


「な、なんで…ここで、いきなりお別れなんて…やだ…やだよ…やだよぉ……」


 ──咲桜が、こんなに泣いているのは初めて見たかもしれない。俺たちが元の世界に帰ることを拒む、悲痛な叫び。その叫びが、俺──いや、カリステア家の胸に、響く。


「咲桜…」


 美桜子さんが、咲桜の頭を撫で、慰めようとする。しかし、一度溢れ出した涙、そして、想いは、止まらない。


「わ、私っ…ベラが来てから…毎日ずっと楽、しくて…ベラが居ない生活なんて…想像できなくって…そんなこと…想像したく…なくてっ…」


 泣きじゃくり、胸に秘めていた想いを舌に乗せて、咲桜が俺たちに訴えかける。


「なのに…今日っ…いつもみたいに起きて…いつもみたいに…ベラとここに来たら…帰るって…そんなの…うぅ…」


 溢れた涙を抑えようと、必死に目を擦るが、無意味。手が涙で濡れ、美桜子さんと健蔵さんも、咲桜を慰めようと肩に手を置く。


「咲桜、駄目でしょ?お別れなんて、ずっと会えなくなるわけじゃないから。それに、イュタベラ君も、咲桜にまた会いたいと思ってるはずよ?またタナーシャさん達の方で、こっちに来てくれるから。ね?」



「そうだぞ、咲桜。カリオンさん達も、ここは良い所だって言ってくれただろう?良い所には、自然と来たくなるものだよ。大丈夫、また会えるから」


 そう咲桜を慰める美桜子さんと健蔵さん。当の本人たちは、先のカリオンの説明で帰ることに賛成したようだ。


 ──だが、咲桜が悲しむなら、こちらも考えを改める。


「父さん」



「ん、どうした」



「──やっぱり、俺はここに残る」



「──!!」


 そう告げた途端、目を見開くカリオン。


 でも、ごめん。俺もまだ、咲桜と別れる準備が出来てなかったみたいだ。


「父さんは夏祭りって知ってる?」



「──いや、知らない」



「あと10日くらいで開催されるらしいんだけど、夏だけにある特別な祭りなんだって。それをカリステア国でやるのは良くない?視察も兼ねて、咲桜と行きたい」


 視察なんて、するつもりはほとんど無い。ただ、俺も祭りは好きだ。楽しい時間を、もう少し咲桜と過ごしたいが為にこんな提案をしている。


 そんな俺の思惑が、カリオンには分かっているのだろう。カリオンは、俺と視線を交わすと、



「──他には、何か楽しそうな事はあるのか?」



 微笑み、そう問いかけるカリオン。それに対して俺は、少し考えると、



「ある、はず。咲桜、他に何か祭りとか楽しいことはある?」



「ふぇ…?」



 急に話を振られて戸惑う咲桜。しかし、咲桜はすぐに考え込み、その腫らした目をこちらに向ける。



「え、と…あとは…夏祭りでは花火大会があって、3ヶ月後には学校で文化祭があって、ハロウィンがあって、修学旅行があって…それで…それで…」



「リオくぅん、いい加減、ベラはここに残すって言ったらどぉ?咲桜ちゃん、こんなに必死になってるのにぃ、可哀想だよぉ?」



 そうして、追い討ちのようにタナーシャごカリオンに提案する。



「イュタベラくんは、僕たちが面倒を見ます。何かあれば、償いは必ず。だから、イュタベラ君をまだここにおいてはくれませんか?」



「───」



 沈黙が流れる。





「──分かった。イュタベラは、ここに残す。でも、僕たちは帰るから。イュタベラ、失礼のないようにな」



「へ…」



 思わず変な声を出してしまった。しかし、ということは…。



「イュタベラ、視察の件…いや、そんなのはもういい。ここでの生活、しっかりと楽しめよ」



「──!!」



 俺は、ここに残っていいのか…!



「ベラ…!」



 先程まで泣いていたのが嘘であったかのように、笑顔になった咲桜。





 ──こうして、俺の帰宅論争は幕を閉じた。


 ――――――――――――――――――――――


「それじゃあ、僕達は帰ります。今までありがとうございました」


 その日の夕方。俺と高峰家は、カリオンとタナーシャを見送るために外に出ていた。



 高峰家の皆は、笑顔で手を振り、カリオン達が去るのを見送る。



「あ、忘れてた。僕がイュタベラをここに送ったのは、2か月前だったっけ。10ヶ月後、迎えに来るから、それまで精一杯楽しんで、沢山話を聞かせてくれ」



 去り際、カリオンが俺にそう言った。約1年間も時間をくれたのだ。時間を大切に、目一杯楽しもう。


 ──そして、俺も。



「父さん、()()()()、よろしく!」



「あぁ、分かってる!」



 遠くなる背中にそう言って、家の中に入った。





 あぁ、楽しみがありすぎる。

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