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誰か異世界の常識を教えて!  作者: 三六九狐猫
第三章 体育祭
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第26話 選択


 夏休みが始まった、数日後のこと。


 いつものように朝起きて、咲桜と1階に降りると、四人の声が聞こえた。どうやら、俺の親と咲桜の親が何か話しているらしい。


 話の内容が気になり、リビングに降りると、美桜子さんの声が聞こえてきた。


「それじゃあ…今日で…。そうですか…」


 なにやら悲しそうな声音でそう呟くのが聞こえる。


 隣の咲桜も、不思議そうに首を傾げるが、ここでこっそり聞くだけでは何も始まらない。


 そう思い、リビングに顔を出すと、そこには真剣な顔つきでテーブルに四人座っていた。


 そのうち、カリオンが俺に気づくと、「丁度良かった」と手招きする。しかし、その対面にいる二人、咲桜の両親である美桜子さんと健蔵さんは、暗い顔をしている。


 カリオンに従って、隣の椅子に座ると、カリオンが話し始める。


「イュタベラ。話は聞いてたか?」


 そう問いかけるカリオンに、俺は首を振った。


 それに対し、カリオンは「そうか…」と1度目を瞑る。そして目を開き、隣に座るタナーシャと、対面にいる美桜子さん、健蔵さん、そしてその間に座る咲桜の方を交互に見る。


 最後に俺の方を見て、一度深呼吸すると、「実は…」と切り出し──


「実は、僕とタナーシャは、今日で日本(ここ)を去るんだ。イュタベラには、ここに留まるか、僕たちと一緒に帰るか、決めて欲しい」



 ──。




 ────。







 ──今、なんと言われた?


「ち、ちょっと待って、話が急で…聞き間違い?」


 何だか嫌な事が聞こえた気がする。気の所為であってくれ──。


 しかし、そんな思いも虚しく──


「もう一度言うぞ。──イュタベラには、僕達と一緒に帰るか、高峰家にまだ世話になるか、決めて欲しい」



 聞き間違いでは、無かった。



 カリオン達は今日、カリステア国に帰る。しかし、俺がどうするかは、俺自身が決めろ、と。


「そ、そんなの急すぎじゃ…」



「今日で、僕達がここへ来て1ヶ月だ。もうクイックサモンは使える。それに、僕はカリステア国の国王だ。あちらを息子達にずっと任せる訳にはいかない」


 いつもの軽口を叩くような口調とは違う、真剣な声音。そうだ。カリオンは、一応カリステア国の国王なのだ。兄たちにいつまでも仕事を押し付けるのは、王としての責任がない。


 でも────、


 本来、ここに来た最大の目的は、異世界の文化をカリステア国に取り入れるための視察だ。


 しかし、1ヶ月前、ガリオンは「後々やればいい」と言った。俺の事が心配だから、今はまだしなくていい、と。


 そう考えると、俺はカリステア国に戻った方が良いのかもしれない。いや、今更になって高峰家に迷惑をかける、などと言うつもりは毛頭ない。咲桜達は、俺たちを歓迎してくれた。その好意を蔑ろにするつもりは無い。


 だが、俺は本来カリステア国の人間であり、俺から見れば、日本(ここ)は異世界。それも、魔法が世間に浸透しておらず、魔獣も存在しない世界。


 そして、咲桜たち日本人から見ても、俺の存在は異様そのものだと思う。


 つまり──、


「わ…かった…。かえる…よ。帰る」


 俺は、俺たち家族は、日本(ここ)に居るべきじゃない。


 日本人が、この世界の人間が魔法が使えないということは、今、この世界で魔法を使うことが出来るのは、俺、カリオン、タナーシャだ。


 そして、ここの憲法では、魔法の存在は否定、いや、そもそも眼中に無い。


 ということは、俺たちの存在は国家にとって危険そのものである。その気になれば、風魔法を使って殺人を犯し、手がかりの掴めない完全殺人を遂行することだってできる。するつもりは勿論無いが。


 しかし、そういった事ができる以上、日本は俺たちのいるべき場所ではない。


「そう、か。理由は詮索しないよ。色々と考えての結論だ。」


 俺の返答に、カリオンは少し悲しく笑うと、「今日の夕方に帰るから、それまで異世界を堪能してきな」と提案。この場を去ろうとする。


 しかし──


「「「待ってください」」」



 そう。高峰家は優しい。








 ───だから、俺の決断を止めるのは、もはや確定していたのだろう。

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