第25話 体育祭、その後
「ベラ、何かあった?」
真剣な眼差しでそう問われ、俺は思わず驚く。
今思えば、俺は体育祭の結果を夜までずっと根に持っていたのだ。なんと女々しいことか。そしてそれを、咲桜に勘づかれていたとは。
──本音を言うべきだろうか。
しかし、言ったとしてどうなる。わざわざ俺が「咲桜を元気づけるために体育祭頑張ったのに結果が残念だった」と言えば、咲桜は間違いなく混乱する。
そして、また心の傷を増やす要因になりうる。
それだけは、避けなくては。ただでさえいじめで去年の体育祭を辞退したのだ。無駄な発言はよそう。
「ん?いや、特に何も──」
「嘘ついちゃダメだよ。ベラが何かに困ってるの、顔みたら分かるもん。」
しかし、咲桜は見逃してはくれなかった。
少し前のめりになり、頬を膨らませている咲桜。そんな表情をされては、隠し事など到底出来るはずもない。
いやしかし──、
「もしかして、私が何か悪いことした?それならごめん…」
「いやいやいや、咲桜は何も悪いことしてないよ!」
「じゃあ、何があったか話して」
両肩を捕まれ、思わず背筋が伸びる。これはもう、言い逃れは出来ないな…。
「──じ、実は…」
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そうして経緯を話終えると、咲桜は「私のために…」と顔を赤らめて俯く。
しかし、すぐさま「うん?」と頭に疑問符を浮かべ、
「えっと、私、去年はいじめられてなんてないよ?」
「え?」
──え?
「いや、だって、去年は行かなかったって…」
咲桜が熱中症で倒れた時、看病している美桜子さんが言っていたじゃないか。あんな辛そうな表情もして─。
「ち、違うよ?私、去年は違う学校に行ってて、去年のこの時期に転校してきたの。でも、丁度体育祭の時期で、私何も練習とかしてなくて、だから休んだの。」
「──。」
つまり、去年は咲桜自身の事情があって、行かなかったというより行けなかったのか。俺が一人で考え過ぎただけか…。
「恥ずかしい…」
羞恥心で顔から火が出そうだ。そんな俺に、咲桜は「もう、」と頬を膨らませ、
「そうやって一人で悩むから、そんなことになるんでしょ。私にも相談して。他人に相談するのも、『常識』だよ?」
と、座った姿勢で腰に手を当て、ぷりぷり怒る咲桜。
しかし、咲桜は瞬時に顔をほころばせると、
「でも、私の事思っててくれたのは、素直に嬉しい。ありがとう」
と、最上級の微笑みを俺に向けた。
──その顔は、反則だな。
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数日後、HRにて。
「んじゃ、明日から夏休みだから、ハメ外しすぎないようになー。宿題もちゃんとやれよー」
夏休みが、始まるぞ!