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誰か異世界の常識を教えて!  作者: 三六九狐猫
第三章 体育祭
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第23話 学年リレーその2


「お待たせしました!今から、2年生クラス対抗リレーを始めます!2年生の皆さんは、入場してください!」


 2年生、最後の競技。


 玉入れでは活躍できたが、果たしてリレーではどうだろうか。


 現状、1組は良い順位だとは思う。個人競技の方も、スウェーデンリレーは1位だし、俵担ぎ以外は全て2位。全体で見れば良い結果が残せていると思うのだが…。


「3組が怖いな…」


 そう、問題は3組だ。3組は大縄跳びで1位、俵担ぎでも1位をとっており、他の競技は全て2位。


 それまではまだいい。このリレーで1位をとれば、まだ巻き返せる筈だ。


 しかし、3組はスウェーデンリレーで2位。それも、1位だった1組と僅差での2位だ。同じリレー種目なので、油断が出来ない。


 でも、やるしかない。


 咲桜の足の速さは…うん。最初に走る真也や、最後から2番目に走る行飛などが頑張ってくれるはず。


 そこで1位をとってくれると有難いのだが…。


「イュタベラ、俺より早いけん、1位とれよ?アンカーにかかっとるけんな?」


 入場門前に並んだ際、行飛がそう話しかけてきた。


 そう、俺はアンカーなのだ。最初がどれだけ悪くても、アンカーが1位ならそれでいい。だが、俺に1位がとれるかと問われると、頷くことは難しい。


 自信が無いまま本番。1番だめな状況だ。


 と、頭を抱える俺に、咲桜が近づいてくる。


 咲桜は、俺の心中を察してか、俺の肩に手を乗せ、


「ベラだけが気負うこと無いと思うよ。私も頑張るから、頑張って」


 親指を立ててウィンクする咲桜。その姿が可愛くて、俄然やる気が溢れてくる。


 そこで笛の音が鳴り、入場の合図。「あ、並ばないと」と自分の列に戻る咲桜に、


「咲桜も頑張れよ」


 とこちらも親指を立てる。


 咲桜はそれを笑顔で受け止め、整列した。


 さて、頑張りますか。


 ――――――――――――――――――――――


「それでは、生徒は各位置に着いてください!」


 入場し終え、それぞれ所定の位置に着く。


 このリレーは、2百メートルある『トラック』を、1人百メートルずつ走る。当然、50メートル走より体力がいる為、後半疲れる人も多い。


 俺はアンカーなので、体育委員長のいる本部側のゴールとは反対、入場門側の位置の最後尾に並んだ。


「それでは、2年生クラス対抗リレーを始めます!」


 全員並び終えたのを確認した体育委員長が、合図をかける。


 ──今できる最善を尽くし、咲桜を楽しませよう。




「位置について!」




 最初に走るのは真也だ。片膝と両手を着いた『クラウチングスタート』という姿勢でこのリレーは始まる。




「よーい!」




 腰を上げ、前傾姿勢に。そして──




「どん!」




 掛け声と共に、各クラス走り出す。


 トラックの都合上、スタート位置が外側に行くにつれて前に設定されており、俺ら1組は一番後ろ、1番内側のレーンだが、多分、今の暫定1位は1組、真也だ。


 真也は、その身長からは想像できない速さで前との距離を縮め、第2走者にバトンが渡った時には、前の2組を抜かしていた。




 ──この調子なら、1位はいける。




 そう確信した。







 確信、したのだが──、









「現在1位を走っているのは、3組!その次に1組、2組、4組です!皆さん頑張ってください!」


 現在、第23走者が走っている。最初に真也が走ったおかげで後ろのクラスとは差が着いてはいるが、3組との距離が中々縮まらない。


 あの距離は、俺が走ってどうにかなる距離ではない…。


 と、そう考えているうちにもリレーは進み、次の走者は咲桜だ。


 咲桜は本部側にいるので遠くて見えないが、スタートラインに立つ咲桜はどこかそわそわして、緊張している。


 そんな咲桜に構わず、バトンは咲桜の手の中に。


「咲桜!頑張れー!」


 そう叫ぶ俺の声は届いたのだろうか。いや、届いたはずだ。


 走る咲桜は、俺を見るとニッコリと笑い、今までで一番早く走り、遂に──


「1組、3組を抜かしました!」


 そのままの順位で第26走者にバトンを渡し、レーンの内側へ。


 そのまま咲桜は俺の方に近づき、小声でこう言った。


「ベラ、応援ありがと。実は私、毎日練習してたんだよ。ベラ、最後頑張ってね」


 ──とんだサプライズだ。


 咲桜に応援されては、俺もいい所を見せないと。俺も頑張らなければ。





 ──そして、第30走者、アンカーの俺にバトンを渡す、行飛の番。


 現在、接戦ではあるものの、1組の方が3組より前に出ている。このままこの位置でバトンが渡れば、一位はとれる。



 ──しかし、現実はそう甘くはなく。


「おっと!1組転けた!その隙に3組がトップに!1組、頑張ってください!」


 行飛の足が縺れ、転倒。転がりを利用して直ぐに立ったものの、3組に抜かされてしまっている。


 現在の3組との差は、ざっと30メートル程。絶望的だ。


 そして、スタートラインに立つ3組のアンカーが、バトンを渡され走り出す。


 少し遅れて行飛が到着し、「すまん」と小声で言いながらバトンパス。


 少し視線をトラックの内側にずらせば、走り終わったクラスの人が応援している。


 その中に、求める人影──全力で応援してくれている、咲桜の姿が視界に入る。


「俺も、頑張らないとな…!!」


 そう呟き、全力スタート。


 戦いの基本は、どれだけ間合いを詰められるかだ。


 俺もカリステア国にいた時は、魔獣と戦うために戦闘訓練を受けてきた。その成果がこのリレーで出るとは何とも気の抜ける話だが、今はこの走法しかない。


 一歩一歩確実に踏み込み、足の回転は素早く、地面を蹴る度に加速。前傾姿勢で重心を前にやりながら、加速と共に上体を起こす。




 ──残りおよそ70メートル。3組との距離、20メートル。




 加速が終わったら、今度は歩幅を広げる。足の回転はそのままに、歩幅を広げたことで更にスピードが上がる。曲がった道は、曲線ではなくなるべく直線を意識して走る。




 ──残りおよそ50メートル。3組との距離、15メートル。




 最大までスピードを上げたら、後は体力勝負。体力には自信がある為、3組のアンカーがどれだけスピードが落ちるか。




 ──残りおよそ30メートル。3組との距離、5メートル。




 大分近づき、もうすぐで抜くことが出来る距離。


 3組はスピードが落ちてきており、このまま行けば勝てる!!




 ──残りおよそ10メートル。3組との距離、無し。




「ベラ!頑張れー!」


 咲桜の声。咲桜の応援。その他にも、クラスの皆が応援してくれている。


 こんなの──


「1位、とるしか、ない!!」




 そして。





「只今の結果を発表します!」



「第4位、4組!」





「第3位、3組!」




「そして、1位と2位ですが─」





「ビデオ判定の結果、ゴールテープに先に触っていたのは、1組!よって、2年生学年対抗リレーは、1組の勝ち!」


 我ながら見事な大逆転で、このリレーを勝利することが出来た。


 この後、興奮のあまり退場後に咲桜が俺に飛びつき、皆から微笑ましく見られたが、それを含めて、良い思い出になった。

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