第21話 玉入れその2
と、そんな事があり、コツはバッチリ頭の中。ここで記憶力が良い事が生きてくる。
咲桜には、この事は秘密にしてある。何故かって?教えたら、サプライズにならないじゃないか。
それに、俺がコツを知った所で、それを再現できるかは俺次第なんだ。練習でも出来ればよかったが、今朝言われたことなので、もちろん1発本番だ。
もし咲桜にこの事を伝えると、変に期待させてしまうだろう。緊張しない方がおかしい。
そして、入場門に着くと、所定の位置に並ぶ。
「ベラ、男子一人だからって、無理しちゃダメだよ?玉入れは、所謂捨て競技なんだから」
と、俺の隣でそう言う咲桜。
無論、他の女子全員の分働くつもりはないが、この競技を捨てるつもりも毛頭ない。
この競技で優勝する。そう胸の内で誓い、入場門を出た。
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この玉入れは、体育委員長の笛の合図で始まり、次の笛の合図で終わる。
計四クラスの内、三クラスが全ての玉を入れると、その時点で笛がなる。
尚、最後に投げる玉は各クラス決まっており、通常の玉より少し大きめ、入れる籠の四分の一程の大きさだ。
そのルールで玉入れは行われるが、俺らのチームは練習中はいつも最下位。正直、目も当てられないほど圧倒的に負けている。
このクラスを勝たせるためにも、咲桜を喜ばせる為にも、俺が頑張らねば。
そして、待ちかねた声が響く。
「それでは!二年生選抜競技!玉入れを始めます!各自持ち場に着いてください!」
「それでは、準備は宜しいでしょうか!玉入れ、スタート!」
ピー、と笛の音が轟き、それを合図に皆が玉に向かって走り出す。
俺も例外なく玉を手に取り──っと、一個じゃなかった。
今朝の行飛の助言を思い出し、玉を四個、両手で挟むように持ち、胸の前へ。
そして籠からおよそ1メートル離れ、籠の少し上を目指し──
「ほいっ!」
ジャンプしながら、両手の玉を押し出す。
──コツを知ると、こんなにも違うのか。
投げた玉四個中、三個も入った。これは幸先が良い。
この調子で…。
また玉を四個持ち、同じ手順で籠に玉を投げる。二個入った。
行飛様々だな。いや、ネット様々か?
兎に角、この調子でいけば冗談抜きに優勝出来るかもしれない。
落ちている玉を広い、投げ、拾い、投げ、拾って、投げて…。
残りは小さな玉一つと、最後に入れなければならない大きな玉。
小さな玉をすんなりと入れ、大きな玉を手に持つ。
他のクラスは、未だ残り1〜3個の玉と格闘中だ。まだ余裕はあるが、早めに入れねば。
そして、他のチームメイトに見守られ、最後の玉を…
「──入っ…たっ!」
なんと、一発で籠に入るという好プレー。これは世界もビックリ。
堂々の優勝という結果を残して、玉入れは幕を閉じた。
「ねぇ、ベラ」
玉入れが終わり、昼休憩に入った。
無論、俺と咲桜は同じ場所で食事を行うのだが。
「ん?どうした?」
「玉入れ、凄かったね…」
サンドイッチを手に取りながら、咲桜がそう俺に言った。
どうやら、サプライズは成功したようだ。
それでは、種明かしをしようじゃないか。
「実はな──」
そこで、俺は今朝の行飛との事を話した。
話し終えると、咲桜は不満そうに──いや、事実不満を抱え、頬を膨らませる。可愛い。
「ベラ」
その声に少量の怒気を孕みつつ、咲桜が俺を睨みつける。可愛い。
「あ、はい、何でしょう」
その剣幕に押され、思わず敬語になる。
「そういう、コツとかは独り占めしないで共有して。これ、『常識』だから」
そう言って、もう、と顔を逸らした咲桜に、ごめんごめんと平謝り。
それを咲桜は、まぁいいよ、と再びこちらを向き、何故か赤らめた顔を向ける。
そして再び俺の視線から逃れるように俯くと、
「か、かっこよかったし…」
と、夏間近なのに、そんな熱い言葉をくれたのだ。
え、この文章上手いよね?