第20話 玉入れその1
そして、組体操が問題なく終わり(問題はなかったが面白みも無かったとは言えない)、午前最後の競技、個人種目の玉入れの時間だ。
この競技は、各チームに1本、先端に籠が付いた棒が立てられ、その籠の中に玉を入れる、というシンプルな競技なのだが、これが難しい。
肝心の籠が上にある為、ボールを投げ入れなければならず、その場合距離や力加減などを計算しないと上手く入らない。とても難しい。
ちなみにこの競技は、各クラス6名が選抜されるのだが、どうやら玉入れは、運動が出来ない人達のたまり場らしい。それもそのはず、他の競技は、クラス対抗100m走、俵担ぎ、400mまでのスウェーデンリレー。体力や瞬発力、筋持久力等を必要とする(と先生が言ってた)競技は、運動が出来ない人にとっては地獄でしかない。
もちろんこの玉入れには咲桜も参加しており、男女混合な為同じチームだ。
他のチームメイトはというと、全員女子。なら何故俺が玉入れに参加しているか、それは男女1人以上玉入れに参加しなければならないからだ。
同じ性別で固めてはいけない為、他の競技に出たい男子との参加競技の話し合いという激闘があったが、俺が立候補することでその火は鎮火。
だがしかし、練習した結果、俺はこの競技に向いていないという事がわかった。
簡単に言うと、『玉が入ったことが1度もない』。
──いや、難しすぎないか?
自分の頭より遥か上にある籠に玉を入れるって…1個投げても入らないから沢山持って数で攻めると、籠の口の上で玉同士が当たって結局入らない。これはダメだな、あっはっは。
と、楽観する暇もなく──
「次の競技は、玉入れです!玉入れに参加する生徒は、入場門前に並んでください!」
体育専門委員長からの、馬鹿みたいに元気な指示。
その指示を聞き、応援席に座っていた俺は、よいしょ、と腰をあげる。
「ベラ、いこっ」
見るからに楽しそうな咲桜。いや、咲桜も練習中1回も入ってなかったよな?なんでそんな無邪気な笑顔でいられる?
その手に引かれ、俺らは入場門へと足を進めた。
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今朝、教室に入った時のこと。
「イュタベラ、ちょっと」
手招きしてきたのは、運動神経抜群の高身長、行飛だ。
真剣な面差しで俺を呼ぶ行飛。それに従い、行飛の方へ。
会話ができる距離まで近づくと、腕を組んで座っている行飛が口を開いた。
「イュタベラ、玉入れ苦手なん?」
その一言に、ドキッとする。俺が玉入れ苦手なのなんで知ってるんだ…。
何故知っているかは置いておいて、俺は頷く。
すると行飛は、不意に俺の目の前に掌を出した。
「何が苦手か知らんけど、玉入れのポイントは5個しかないんよ」
──なるほど、俺にコツを教えてくれるのか。
と、俺が納得したと同時、行飛は掌のうち、親指を折り曲げると、
「まず1つ。玉は籠から1メートルくらい離れたとこから投げる事」
1メートル、意外と距離があるな。そういえば、俺は練習中は3メートルかそれ以上離れたところから投げていた。1メートルでいいのか…。
そして、次に、と行飛は人差し指を曲げた。
「2つ目は、両手の平を合わせるように2〜4つ持つこと」
両手の平を合わせるように…か。結構独特な持ち方だ。
と、行飛が今度は中指を折り曲げる。
「3つ目。両手で胸から押し出すように投げる事」
続けて間を空けず、
「4つ目。籠の少し上を狙う事」
狙う所を聞けたのは大きい。何処を狙えばいいのか分からなかった。
「んで、最後。5つ目は、ジャンプしながら投げる事」
ジャンプしながら…?難しくないか?あれ、でもこれで最後か。
えっと…つまり?籠から1メートルくらい離れたところから、玉を両手の平で2〜4個挟んで、籠の少し上を狙って、ジャンプしながら胸の前で押し出す感じに投げる、か。
──なるほどなるほど。
「行飛」
「ん?どしたん?」
「それ、練習中言ってよ…」
「あぁ、すまんすまん」
笑いながら頭を搔く行飛。まぁ本番でも玉が入りそうになかったから、素直に礼は言っておこう。
「あれ、そういえば、なんでそんなにコツ知ってるんだ?」
「ネットで見た」
「ネットの押し売りか…」