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誰か異世界の常識を教えて!  作者: 三六九狐猫
第三章 体育祭
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第19話 大縄跳びその2


「新記録、100回いけるか…?」


 まだ達成していない目標である、『100回飛ぶ』。この本番という緊張感高まる状況の中で、果たして成功できるのだろうか。


「イュタベラ、そんなに緊張せんでいいよ。今まで通りやったらいいやろ」


 そう言ったのは、俺の隣に並んでいる行飛だ。


 行飛は運動神経が抜群に良く、今まで大縄で引っかかったところを見た所がない。


 そんな行飛は、俺の肩をぽんぽんと叩き、右手の平を見せてくる。呪文の詠唱か?


「右手にな?人っち書くやろ?んでそれをこうして飲み込む真似するやん?そしたら自然と緊張解れるけん、やってみ」


「あ、うん…」


 呪文の詠唱では無いことに安堵しつつ、その訳の分からない行動を一先ず真似してみる。


 実はこう見えて凄く緊張している。心臓がバクバク言ってる。


 それは他のクラスに負けたくない、という気持ちもあるが、1番は咲桜の為に出来ることが見つからない、ということだ。


 咲桜は、この体育祭が初めてらしい。去年は行ってなかった、と。それは、もしかしたらいじめが原因だったのかもしれない。それを俺が無意識のうちに掘り起こしてしまったのだから、あんな悲しい顔をしたんだろう。


 ならば俺が、咲桜に笑顔でいさせないと。


 右手に『人』と書き、それを口の前へ。その人という字を飲み込む形で開けた口を閉じ、何も入っていない口内を、ただ噛む。


「あ、イュタベラ、噛まんでいいよ」


「え…」


 恥をかいた。


 と、そんなことをしている内に、2年生全クラスが並び終え、合図と共に皆一斉に立ち上がる。そして、各クラスの先頭に並んでいる体育委員の笛の音に合わせ、駆け足で入場門を潜った。


 各クラス定位置につき、縄を伸ばす。各自持ち場につき、監督の合図を待つ。監督が笛を鳴らせば、大縄跳び開始だ。


 女子が先に飛ぶため、男子は少し離れた位置で待機しているが、緊張感がこちらにも伝わってくる。


 この大縄跳びは、男女の飛んだ数の合計で順位が決まる。


 2年生の女子の平均は、大体70回。俺らのクラスは、最高が75回と、平均より少し多い。有利だ。


 しかし、問題は男子。初めは運動神経が良さそうと思ったのだが、この競技は団体戦。いくら運動神経が良い人が多かろうと、1人が絶望的に運動神経が悪ければ、記録は全く出ない。


 このクラスは目に見えて悪い、という人はいないが、少数、10人程度が、皆と比べて体力がクラス平均を下回っている。


 よって、大縄跳びは男子の平均回数が100回なのに対し、こちらのクラスは最高82回…。


 女子ができる分、男子を引っ張らなければという使命感のようなものがあるのだろう。


 せめて、女子達はミスのないようにして欲しい。特に咲桜は緊張すると頭がすぐ真っ白になる傾向にある為、リラックスして欲しい。


 と、各クラス準備が整ったところで、先生が笛を加える。


「それでは、2年生学年競技、大縄跳びを始めます。よーい…」


 その掛け声で、縄を持つ2人がせーの、と声を掛ける。


「始め!」


 その合図と共に笛がなり、それと同時に大縄跳びが始まる。


 正面、飛んでいる女子の中に、咲桜を見つけた。


 お互いに目が合うと、咲桜が笑いかけてくる。


 それに対して、俺は──。


「頑張れー!みんなー!頑張れー!咲桜ー!!」


 全力の応援で応えた。



 ―――――――――――――――――――――――


 「そこまで!」


 その合図と同時、全クラスの動きが止まる。


 咲桜達は、数回は縄が止まったものの、数えた限りでは連続で70回は飛んでいた。これが、他のクラスに比べて少ないのか、多いのか。


 先生の指示を待つ。




「結果が出ました!」


 と、先生の記録表を持った生徒、先程から開始、終了の合図等を出していた、『体育委員長』が、『マイク』を片手にそう言った。


 ここで、どれくらいの差が出るのか。俺たち2年1組に、勝ち筋はあるのか。


「発表します!」




「1組、70回!」


 よし、これは数えた通り。後は他のクラスだが…。


「続いて、2組!」




「記録、69回!」


 1回差!危なかった。この差を埋められないようにしなければ。


「続いて、3組!」




 「記録、82回!」


 82回…?12回差…。まずい。3組の男子は練習で100回は飛んでいたはずだ。プレッシャーがかかる…。


「最後に、4組!」




「記録、60回!」


 4組には勝てそうだ。いやしかし、問題は3組。勝たねば…!!


「次は男子です!各自持ち場に着いてください!」


 合図がグラウンドに響き渡り、女子と入れ替わる。


 すれ違いざまに、咲桜が「頑張って」と声をかけてきた。力が湧いてくる。


 咲桜にいい所を見せたい。その気持ちを胸に、男子の大縄跳びが始まる。


 ―――――――――――――――――――――――


「そこまで!」


 合図があり、動きを止める。


 正直に言うと、3組には恐らく勝ててはいない。


 俺らは序盤に1回引っかかったが、それ以降は粘りを見せ、数えたところだと100回か、それより少し上か下か。


 対する3組は、1度も引っかかっていない。縄の速度は俺らより遅いが、確実に飛んでいた。



「それでは、結果を発表します!」


 結果発表だ。疲れた足を座って解しながら、その発表に耳を傾ける。


「まずは、1組!」







「男子、98回!合計、168回!」


 100回はいっていなかった…。168回、あまり余裕がある回数ではないだろう。


「続いて、2組!」







「男子、94回!合計、163回!」


 2組には勝った。最下位は回避出来たようだ。隣で2組が落胆の声を上げている。


「続いて、3組!」







「男子、120回!合計、202回!」


 ──負けた。38回差。優勝は無くなってしまった。


 せめて、2位を──


「最後に、4組!」







「男子、91回!合計、151回!」



「よって、大縄跳び優勝は、3組!」


 その声に、3組全員が歓喜の声を上げる。対する俺たちは、男子の記録に感嘆しつつ、2位という結果に満足出来ずにいた。


 ──咲桜に良い所を見せられなかった。


 大縄跳びでは、と付け加えておこう。大縄跳びだけであって欲しい。後に、組体操(は点数は関係しないが)と玉入れ、リレーが残っている。そこで好成績を残そう。


 そう決意し、退場門を潜った。

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