第17話 体育祭当日
そう決意し、体育祭練習を懸命に頑張った俺だったが──。
「──結局、何も思いつかなかった…」
意気込んだは良いものの、『楽しませる』という抽象的な目的を実行出来るほど、俺は有能じゃない。
しかも、いよいよ明日が体育祭本番。今は自室で寝る前に作戦会議中だ。
咲桜が喜びそうな事といえば小説やアニメだが、体育祭とは全く関係がない。
体育祭中に、咲桜の心の傷を少しでも癒さなければ。俺が広げてしまった傷は、俺が直さなければ。
そう考えれば考えるほど、何も思いつかなくなるのは神の悪戯だろうか。だとしたら神をぶん殴ってやりたい。
などと、おかしな妄想に付き合っている暇も無く。
明日の俺と咲桜の出番は、俺は組体操、咲桜はダンス、そしてクラス対抗リレーと大縄跳び。個人種目は咲桜と同じ玉入れにした。
この中で、咲桜を楽しませる方法とは…。
そうして、考えて、考えて、考えて──。
気づけばもう、体育祭当日の朝を迎えていた。
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起きて直ぐに部屋を出ると、咲桜が同時に部屋から出てきた。
今朝の咲桜は、運動会が余程楽しみなのか、ニコニコしている。いつもの寝ぼけ顔とは大違いだ。
1階のリビングに移動し、朝食を済ませ、歯を磨いて体操着に着替えれば、あとは荷物を持って学校に行くのみ。
『タオル』、『水筒』、『ハチマキ』を持ち、同じく支度を済ませた咲桜と共に、玄関に立つ。
「さく、イュタベラくん、頑張ってねっ!応援するから!」
「ベラとぉ、咲桜ちゃん、頑張ってきてねぇ。何するか知らないけどぉ」
靴を履いていると、美穂子さんとタナーシャがそう声を掛けてきた。
その声に、俺と咲桜は「うん」と短く返答すると、玄関の扉を勢いよく開ける。
「「行ってきます!」」
体育祭が、始まる。
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「宣誓!私たち、生徒一同は!互いの健闘を称えあい!一生懸命演技し!この体育祭を成功させることを!誓います!」
各ブロックの代表によるその宣言が、体育祭開始の合図だ。
体育祭では、生徒がクラスごとに色分けされたブロックに参加する。全部で、赤・青・黄・緑の4つのブロックで、この体育祭を盛り上げるのだ。
感覚をあけ、グラウンドに整列した生徒を、台に立った校長先生が見下ろしている。
「今日は待ちに待った体育祭です!天気にも恵まれており、競技をするにはもってこいの1日です!しっかり頑張ってください!」
そう言って、校長先生が台から姿を消した。
その後、準備体操をして、各ブロックの待機所で待機。自分の番を待つ。
俺らの最初の競技は、大縄跳びだ。気合いを入れねば。
「円陣組もうぜ!」
出番直前、整列する前にそう声をかけたのは、行飛だ。
『円陣』が何かは分からないが、皆が賛同している為、俺も頷く。
すると、クラスの皆は輪になり、両隣の肩を組んだ。
左には咲桜がいる。咲桜にこれは何かと小さく問うと、「とりあえずオー!って言って」と小さく返された。オー!って何?
そんな話をしている間に、行飛が皆に声をかける。
「まずは大縄跳び!頑張るぞー!」
『オー!』
「お、オー!」
少しテンポがズレたが、まぁ及第点だろう。
その円陣を合図に、大縄飛びが始まる─。