第14話 体育祭練習その2
俺の両隣に座る、2人の人物。かつて咲桜を虐めていた2人とグループになった。
「お前ら、咲桜を虐めてた…」
不意に口をついて出たのは、その一言だった。
右に座っているのが、俺と手合わせをした大柄な男子。筋肉質な体をしており、髪は極端に短い。坊主だ。切れ長の目をしており、悪役にはピッタリな容姿をしている。
一方左に座っているのは、細身の男子。気の弱そうな面持ちで、前髪は綺麗に切り揃えられている。
そんな2人は、俺の言葉を聞くと、バッとこちらを向き、
「「い、今は違うし!」」
と、大声で否定した。
──先生の話の途中何だけど、そんな声出して咎められないのか?
「お前ら!うるさいぞ!」
「「ひゃい!すみません!」」
ほら見た事か。
怒鳴られた2人は、もう一度俺の方を向くと、小声でこう言った。
「あの時は、その、すまんって。悪いっち思っとるけん。」
申し訳ない、と少し頭を下げた。
その言動に体格とのギャップを感じつつ、組体操の練習は始まった。
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そして、体育の授業が終わり、帰りのHRが始まった。やった、帰れる!
家に帰ったら何の本を読もうかな、とプランを立てていると、矢野先生が教室に入ってきた。
先生は教卓に立つと、いつも通り明日の連絡を済ませる。
今日から体育祭練習のため、毎日体育があるそうだ。
と、そこまではいいのだが。
「今日から、放課後にクラスで体育祭の自由練習がある。HRが終わったらグラウンドに集合しろよ。」
──え、帰れないの?
そう告げた先生は、んじゃまたグラウンドで、と教室を出た。
気づけば、教室には男子しか居らず、皆体操服に着替え始めている。
「帰りたいな…」
そう独り言ち、仕方ないと俺も体操服に着替えた。
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グラウンドにて。
『ジャージ』に着替えた矢野先生が中心となって、今日の練習内容を話し合っている。
「お前ら、何をする?一応大縄とバトンは持ってきてるが」
と、長い縄と赤い色をした筒状の物を両手に持ち、俺らに問いかける。
『大縄』と『バトン』と言ったが、あれで何をするというのか。縄は色々と使えそうだが、バトンは何の役にも立たなそうだぞ。
そう思っていたのだが。
「それじゃ、大縄がしたい奴〜」
「…」
「…リレーがしたい奴〜」
「「「はい!!!!!」」」
それぞれの道具を掲げ、再び問いかける先生だが、バトンを上げた瞬間に皆が賛同した。そんなに価値があるのか?バトンには。
「それじゃあまず順番決めないとな。去年と同じく50m走の記録順にまずは並んでくれ」
そう指示を出す先生。しかし、50mとは何だ?聞いたことあるような気はするが。
すると、俺が戸惑っていることに気づいた咲桜が、こちらへ近寄ってきた。
「50m走、走ったでしょ?ほら、学校に来て数日後に走ったやつだよ」
「──あ〜、なんか走らされたな。で、その数字の通り並べばいいのか」
「うん。何秒だった?」
「5秒84って言ってたな」
「…1番前に並べばいいよ」
「そうか?」
記録を言った瞬間、咲桜が驚いたような顔をしていたが、何なのだろうか。そういえば、走った後で先生が『ストップウォッチ』と俺を交互に見ていたが、そんなにおかしな事なのだろうか。
そんな事はさておき、咲桜に言われた通り徐々に出来てきている列の先頭に並んだ。
すると、後ろにいた背の高い男子──クラスのリーダー的存在、蓑原行飛が声を掛けてきた。
「イュタベラ、何秒やったん?俺より速いん?」
そう腕を組んで尋ねる彼は、どこか威圧的だ。
「5秒84だったけど…」
そう、咲桜に伝えたのと同じように伝える。
しかし、その返答を聞いた直後、咲桜と同じように驚きの表情を見せた。
彼はその表情を隠さないまま、嘘だろ…と肩を落としている。
何がなにやら分からないが、同タイミングで皆が並び終わったので、言及はしなかった。あまり喋ったことないし。
その練習の最中、行飛が妙に俺と張り合ってきたのは、また別の話だ。