第11話 とある雨の日
「…雨、止まねぇなぁ…」
土砂降りの外を窓越しに見ながらそう愚痴る。
現在は6時限目、数学の時間だ。
とは言っても、今やっている授業も理解しているから、聞くだけ面倒なのだが。
先生が何かを(授業内容を)話している中、窓際の席の俺は退屈に外を見ている。
それに何か意味があるのかと言えば皆無だが、強いていえば暇潰しだ。
どの世界でも、知っていることを教えられるほど面白くないものは無い。
─キーンコーンカーンコーン…
不意にチャイムが鳴った。授業終わりの合図だ。
はぁ、これで今日の授業は終わりだ。
「きりーつ!気をつけ、礼!」
あざしたー。
「今日はホームルームやってから掃除だぞー、皆教室待機なー」
と、授業終了後数学の先生が言ってきた。
言われた通り教室に待機していると、担任の矢野先生がドアから現れた。
「えーっと、この後掃除だが、お前らは体育館の掃除をしてくれ。終わったやつから帰っていいから。その代わり先生が点検とかするから、サボってもバレるぞ。あ、今日全部活休みの日だから部活ねぇけど、帰ってゲームばかりじゃなく勉強しろよ」
と、教卓に立った先生がそう言うと、足早に教室を去った。
─掃除面倒いな。サボろうかな。
「ベラ、早く行こ」
隣の席に座っている咲桜が、声を掛けてきた。サボりたいが、皆体育館に向かっているため、俺もそれに倣う。
「体育館はちょっと広いから、頑張ろ」
そう言い、隣で微笑んでいる咲桜。
その笑顔がまた可愛いので、俄然やる気が出た。
―――――――――――――――――――――――
体育館に着き、掃除場所の割り振りが始まった。
ステージに5人、ステージ側の床が5人、玄関側の床が7人(玄関込)、2階の校舎側の窓が3人と床が3人、2階の正門側の窓と床が3人ずつ、そして、体育倉庫の掃除が2人だ。
計31人、クラス全員が掃除をする。
そして、俺と咲桜は体育倉庫の班になった(楽そうだったから)。
それぞれ持ち場に着き、掃除が始まる。
俺と咲桜が持ち場に着くと、みなは既にそれぞれモップ、箒、雑巾等を持ち、清掃を開始していた。
一歩出遅れた俺と咲桜は、まず何をしようか悩む。
実際、体育倉庫は部活で使う人も多いようで、既に綺麗だ。
『ボール』や『跳び箱』等もきちんと整理されており、俺らが手を加えても荒らす予感しかない。
さて、どうしたものか。
「咲桜、どうする?やる?」
と、隣にいる咲桜に問いかける。
すると咲桜は頬を膨らませてこう言った。
「あー、悪いんだー。サボったら怒られるよ。確かにここはもう綺麗だけど、それでも掃除するのが『常識』だから。分かった?」
なるほど、『常識』か。久しぶりに聞いたな。
常識ならば仕方が無い、と俺らも早速清掃に取り掛かる。
さぁ、雑巾を持ってお掃除だ!
―――――――――――――――――――――――
と、意気込んで15分後。
最初は綺麗だと思っていたが、掃除してみると案外埃や汚れが気になる。
壁に付着したインクの様な汚れも、綺麗に落とさないと何だか気分が悪い。
咲桜と同じ考えなのか、先程から同じ所を何度も雑巾で擦っている。
さて、俺ももう少し頑張ろうか、と再び雑巾を持った。
また、皆は既に終わった様で、もう帰っている。
─静かだ。
倉庫にある小さな窓を見れば、未だ雨は止んでいない。
と、窓が汚れているのに気づいた。
俺は倉庫前の扉を離れると、そちらへ向かった。
倉庫自体は狭いが、道具があちこちにある為移動が困難である。
また、咲桜の姿も見当たらなくなっていた。
と、窓際に着いたところで、しゃがんで床の掃除をしている咲桜を見つけた。
俺は窓の汚れを落とすと、咲桜の方へ行くために奥へ。
「咲桜、そろそろ帰るか?」
と、蹲って掃除している咲桜に問う。
咲桜は手を止めてこちらを見ると、
「あ、もう少し…。これ終わったら帰ろ。」
そう言って、咲桜は再び掃除を再開する。
俺も手伝おうと、咲桜の隣に並び、しゃがんで床を磨いていた。
集中して掃除をしていると、時間の感覚が曖昧になってくる。
床の汚れ(結構な強敵だった)を落とし終え、咲桜と共に倉庫を出ようと扉に手をかける。
…ガチャガチャ。
引き戸を開ける音が響く。
あれ、開かない。
…ガチャガチャガチャ。
引き戸を開ける音が響く。
「ん?開かないの?」
…ガチャガチャガチャガチャ。
引き戸を開ける音が響く。
…。
引き戸を開ける音が止まった。
─まずい。
「…咲桜」
隣にいる咲桜に、声を掛ける。
「どうしたの?」
小首を傾げてそれに応える咲桜。
「閉じ込められた」