第118話 送別会閉幕
こうして、楽しい時間は瞬く間に過ぎて行き──
「──そろそろお開きにしましょうか。良い子はもうすぐ寝る時間だ」
パン、と手を叩き、そう言うのは今回の主催者である、高峰健蔵さんだ。
クラス全員での『人狼ゲーム』が終わり(めちゃめちゃ楽しかった)、丁度一段落したところだ。
用意していた菓子は全て食べ尽くされ、飲み物の残りも僅かしかない。
もう、終わってしまうのか。
この、何にも代え難い時間が。
咲桜との時間が。
──日本での、時間が。
「それじゃあ、最後に──アレを渡しましょうか。各々渡していってね」
胸の奥底が訴える寂しさを痛感していると、美桜子さんの明るい声が鼓膜を震わせる。
それが合図だったように、俺の席にクラス全員がわらわらと集まってきた。
なんだか、この学校に始めてきた日を思い出す。
転校生として来た時も、こんな感じで質問攻めにあったんだよな──
「まず俺からやね。ほい、手紙よ」
そう言って目の前に立つのは、短い黒髪に整った顔立ちをした、高身長イケメン──そして、隠れオタクの行飛だ。
性格も凄く良くて、女子からの告白が絶えないのだが、「二次元の女子しか興味無い」の一点張りで、非常に勿体ない奴だ。
そんな行飛が俺の目の前に差し出したのは、一枚の紙──手紙だ。
「えっと、読めばいいのか?」
戸惑いながらも受け取り、行飛に訪ねる。
それを受けた行飛は苦笑い。頬を掻きながら、
「目の前で読まれるの恥ずいけんやめて。あとこれみんなやるけん、いちいち読みよったら遅なるよ」
「まじか──いや、嬉しいけどな」
この手紙をクラス全員から、か。
「荷物が多くなりそうだな──」
カリステアへ持ち帰る、思い出が多くなる。これまででも満足なのに、今から手紙をクラス全員分──。
幸せが零れてしまう。困ったな。
と、独り失笑すると、目の前に再び影が。
先程とは変わって、中学男子にしては低身長。だが、服の上から分かるほど体格がよく、目つきが悪い。
一見するとただのヤンキーだが、こう見えて女子力が高いという事を、みんな知っている。
「おい、次俺やけんな」
「真也か。最近付き合い悪くて悲しいよ」
「思ってもねぇこと言わん方がいいぞ」
と、いつもと変わらない言葉を交わし、一通の手紙を貰う。
「じ、じゃ。ちょくちょく連絡せぇよ」
「照れんなって。お前も梓と頑張れよ」
「っ!イュタベラもやん。がんば」
照れて紅い顔でそっぽを向き、ぶっきらぼうに言う。
そして、次の人、次の人、次の人──
全員と言葉を交わす度に、手元の手紙の厚みが増していく。
そして遂に、最後の人になった。
それは、勿論──
「咲桜に関しては、常に一緒にいるからくれなくてもいいぞ?」
「え、酷くない?あと、私もこの事知らなかったから手紙なんて用意してないもん」
艶やかな黒い長髪、見ているとつい惹かれてしまう、丸く大きな漆黒の双眸。
透き通るような白い肌に、触れれば壊れてしまいそうな儚げな雰囲気を纏った、最愛の人、咲桜が、目の前に立っている。
ちょっとからかってやると、頬を膨らませて不満を露わにした。相も変わらず、どうしてこうも俺を魅了する表情が簡単に出来るのか。
無意識に咲桜の顔を見つめており、咲桜は赤面して顔を背け、外野は盛り上がっている。
睨んで静かにさせたかったのだが、なんだか恥ずかしくて俺もそっぽを向いた。
外野が「お?お?」と煽ってくる。後で殴っておこう。
でもまぁ、こんな時間も楽しいと感じているのは確かだ。
恥ずかしいような、嬉しいような。そんな感情が今、俺を満たしている。
と、急に外野の歓声が「おー?」へと変わり、そして──
「だから、これで許してね」
耳元で囁く声。その直後、頬に暖かく柔らかい感触。
またしても、咲桜から口付けをされてしまったようだ。
外野が「わー!」やら「きゃー!」やらうるさい。
が、止める余裕も無く、俺は顔を真っ赤に染めて黙るしか無かった。