第116話 辿り着いた先に
「はぁ…はぁ…」
「はっ……はっ……」
午後六時を過ぎ、辺りが闇に呑まれた閑静な住宅街。
俺と咲桜は息を弾ませながら、走って芽吹中学校へと向かっていた。
あんなに焦った行飛の声は、初めて聞いた。
学校に居るのだろうが、一体何があったんだ?
美桜子さんと健蔵さんが家から姿を消していたのも気掛かりだ。
一体、何が起こってるんだ──
「ベラ、はぁ、な、何が、はぁ、どうなって、はぁ、るの、はぁ」
「分からないが、まずいことになってるのは確かだ」
美桜子さんと健蔵さんを捜索しなければならないが、宛がない。
取り敢えず学校に行って、行飛に何があったのか確認して、解決したら行飛にも捜索を手伝ってもらって──
「ん?」
「え、はぁ、どうしたの?」
「あ、いや──」
ふと、妙な違和感を覚えた。
何かを見逃しているかのような、そんな違和感。
ただ、その違和感の正体が分からない。何を見逃しているのか、分からない。
何を見逃している?正体はなんだ?
堂々巡りの疑問が、酸素を渇望する脳内を延々と廻り続ける。
走っているからか、脳に酸素が上手く行き渡らず、情報処理能力が低下している。
混乱する脳内を一度リフレッシュさせる為、今は行飛のいる学校へ向かうことを優先した。
「はっ、はっ、やっと、ついた──」
「つ、ついたね、はぁ、はぁ、あ、あそこ、電気が──」
長い坂道を登って、正門をくぐる。
校舎前に辿り着いた俺と咲桜は、一度呼吸を整えるために立ち止まり、少し休む。
肩で息をする咲桜が指し示すのは、二階、家庭科室だ。
一部屋だけ明かりが灯っている。その部屋にいくつかの人影を視認する。
恐らく、行飛がいるのはあの家庭科室。
そして、あの聞いたこともないような焦った声。そして、あの人影。
まさか、行飛は何者かに連れ去られようとしている…!?
急いで向かわなければ。
全力疾走の疲労も忘れて、校舎から二階へ一気に駆け登る。
登り慣れたはずの階段が、異様な物のように思える。
夜の学校が初めての体験だからだろうか。
「はぁ、待って、ベラ、早い…」
「分かった──よいしょっと」
「うひゃいっ!?」
音を上げる咲桜を抱きかかえて、登る、登る、登る。
素っ頓狂な声を上げる咲桜を気にする余裕もなく、目的の二階へ。
所々点滅する蛍光灯に照らされ、薄暗い廊下。不気味な雰囲気を醸し出す空間に、一筋の光が差している。
あそこだ、家庭科室は。
「咲桜、行くぞ」
「分かったけど、まず降ろして」
腕の中の咲桜を降ろし、明かりの灯る家庭科室の前へ。
「──開けるぞ」
「うん──」
咲桜と一度目を合わせ、頷き合う。
そして、意を決して扉に手をかけ、力を込める。
「行飛!助けに──」
「「ようこそ!『イュタベラ送別会』へ!!」」
「────は?」
大勢の声が反響し、同時に大きな破裂音。
見れば、行飛のみならず、美桜子さんや健蔵さん、矢野先生と、クラス全員がクラッカーを放っていた。