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誰か異世界の常識を教えて!  作者: 三六九狐猫
第10章 誕生日の偶然
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第110話 亀裂

 

「ん〜!美味し〜!これ本当にベラが作ったの?」



「だからそうだって言ってるだろう。どれだけ疑うんだよ」



 五回ほど同じ会話を繰り返す。どれだけど料理面で信用されてなかったのだろうか…。


 包みをあけ、中の菓子を頬張る咲桜。


 まだ六時の鐘は鳴っていないにも関わらず、家の外には闇が広がっている。


 美桜子さんと健蔵さんは、もう少しで仕事から帰ってくるそうだ。


 菓子をつまみながら、二人の帰りを待つ。



「そういえば、ベラがプライベートでお菓子作ってくれたの、初めてじゃない?」



 残り少ないチョコレートを口に運びながら、そういえば、と聞いてきた。


 確かに、こうして料理を振る舞うのは初めてのことだ。


 なんだ、そう考えると緊張するな。いや、さっき美味いって言ってくれてたな。安心だ。



「確かにそうだな。喜んでくれて嬉しいよ」



「えへへ、ほんと、美味しいなぁ」



 目を細めて、満面の笑みを浮かべる。


 その表情に見惚れ、思わず顔が綻ぶ。


 幸せな時間が、室内を埋め尽くす。


 この時間が、いつまでも続けばいいのに…。



「はぁ、あと半月で、お別れか…」



 また会えるようになるとはいえ、本当に寂しい。


 自分で作ったチョコの余りを齧りながら、ぼそりと呟く。


 この甘さが、日本との繋がりを感じさせ、寂しさを微量ながらも紛らわせてくれる。


 一日一日を、大切に過ごさなければ。


 拳をテーブルの下て強く握り締め、意気込んだ。その矢先、隣から、息の漏れる音が聞こえた。



「──え?」


 か細い、切ない音が、幸せな時間を塗りつぶし、室内に木霊する。


 声の主──隣で、先程まで美味しそうにチョコを食べていた咲桜が、食べかけのチョコをテーブルに取り落とし、驚愕という表現では足りないほど、目を見開き、口をぽかん、と開けている。


 この反応はなんだ?咲桜は俺が一度帰ることを知っているはずだ。


 なぜ、()()()()()()()()()顔をする?


 脳内で疑問がグルグルと巡り、解明を急ぐ。


 が、答えは、直ぐに出た。咲桜が口を開けたまま、言った。



「え、ベラ、帰るのって──()()()()だよね?」



 信じられない、といった様子で、縋るように尋ねる。


 これは、本気で言っているのか?



「いや、ゲート制作の関係で、帰るのが早まって──」



 まて、そうだ。そうだった。


 俺がこのことを聞いたのは、正月。兄さんが、『父さんからの言伝』という事で俺に報告した事だ。つまり、このことを知っていたカリステア人は、()()()()()()()


 あの時、父さんと母さんは、健蔵さん、美桜子さんの部屋に。兄さんとミロットは、俺の部屋にいた。だから、俺と健蔵さん、美桜子さんは、この事実を知っているだろう。


 このことを決めた父さんが美桜子さんたちに言わないはずはない。


 そして、当時の俺はてっきり、咲桜もこのことを聞いているだろうと勝手に思い込んでいた。


 だが、思い出せ。


 咲桜の部屋にいたのは、咲桜、シャランスティ、そして、ヘレナさん。


 二人とも、ゲート制作に直接的には関与しておらず、ならば当然父さんから俺の帰還が早まることは、知らされていないはずだ。


 ということは、咲桜は、このことは──



「なに、それ──」



 俯き、震える声で、膝の上に置いた手を握りしめる。


 その拳には、怒り、悲しみ、そして、上から零れ落ちる─涙が、



「きいて、ない──聞いてない!何それ!なんで言ってくれなかったの!?いつ聞いたの、今日!?なんで!私、ベラが帰っちゃうの、寂しいって言ったよね!?なんで、なん、で、──」



 感情の決壊。大きな瞳を赤く腫らして、溢れ出る感情を、涙とともに吐き出していく。


 そして、大きな音を立てて、椅子から立ち上がり──



「ベラなんて、───もう、知らない!!」



 そう言って、階段を駆け上がっていく。



「ま、待て!話を──」



 何とか弁明しようとするが、もう遅い。


 強く扉が閉められ、扉の前に物が置かれる音がする。



 咲桜はもう、こちらの話を聞く余裕はない。




 十数分後、美桜子さんと健蔵さんが帰ってきた。


 状況を説明し、二人からは「イュタベラは悪くない」と慰めの言葉を貰ったが、この心に空いた穴は、埋まってはくれない。


 その日から、咲桜は部屋から出なくなった。

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