第10話 高峰家、大家族
そんなこんなで、高峰家と住むことになったカリステア家。
今夜は、タナーシャが咲桜の部屋で睡眠をとり、カリオンが俺の部屋で睡眠をとるようになった。
「へぇ、イュタベラには部屋があるのか。いい部屋じゃないか」
と、初めて俺の部屋に足を踏み入れたカリオンが感想を述べる。
その言葉は聞き流し、俺は普段通りベッドに座ると、傍にある本棚から本を取り出し、読み始めた。
「ん?イュタベラ、本なんか読んでるのか?勤勉で偉いなぁ」
すると、いつの間にかすぐ隣でカリオンが読んでいる本を覗き込んでいた。ビックリした。
「父さんも読む?面白いよ」
俺は本棚から1冊本を取り出し、カリオンに手渡す。
するとカリオンは、本を受け取ると、表紙を観察。そして、中身をぺらぺらと捲り始めた。
─部屋に、本のページをめくる音が響く。
カリオンも、日本の文学に興味を持ったのか、食い入るように文字を追っている。
この空気も悪くないな、と思いつつ、俺は読み終わった本を閉じ、本棚にしまい込む。
そして、また別の、続きの本を手に取り、再び読み始める。
「イュタベラ読むの早いな。面白いか?」
と、ページを捲ろうとした所で、カリオンが俺にに話し掛けた。
俺は読んでいたページに栞を挟み、本を閉じる。
「うん、面白い。咲桜がオススメしてくれる本は、全部面白い」
そう簡潔に答えると、俺は再び本の世界へ。
─その様子を、暖かい目で、カリオンが見つめているとは知らず。
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そんな夜があって、翌朝。
「イュタベラくん〜、サク〜!学校よ〜!」
と、1階から聞こえるこの声は、今はもう慣れた光景。咲桜の母の声だ。
つい昨日は本に夢中になってしまい、夜更かししてしまった。
─眠い。凄く。
いっそこのまま寝てやろうかと思ったが、そんな思考に鞭を打ち、俺は廊下へ。
扉を開けると、丁度反対側から咲桜が出てきた所だった。
─とても眠そうだ。
咲桜は目を擦りながら、俺に気づくと、
「あ、あああ、お、おはよう…」
と、焦ったような早口で挨拶をしてきた。
「お、おはよ…」
その咲桜の様子に困惑しつつ、俺と咲桜は階段の下へ。
─そういえば、父さんが居なかったな。どこへ行ったのだろうか。
と、階段を降り終え、リビングに向かうと─
「あ〜、ベラおはよぉ。朝ごはん作ってみたんだけどぉ、食べて食べてぇ」
キッチンに、咲桜の母、美桜子さんともう1人─俺の母さん、タナーシャがエプロンを着けて立っていた。
タナーシャは包丁で食卓を指し、「早く早くぅ」と包丁を振る。今母さんに近づくのは危険だ。
俺と咲桜は言われるままに机に座ると、美桜子さんとタナーシャが、朝食を持ってくる。
「わたしぃ、頑張って『鮭の塩焼き』?とか作ったのよぉ?美味しかったら抱きしめさせてぇ」
と、タナーシャが戯言を言いながら、俺の前に料理を出す。
見た目は普通の、いや、日本では普通の鮭の塩焼きだ。とても良い匂いがする。
しかし、実はタナーシャは根っからの料理下手で、1度食べると舌が馬鹿になってしまう。
そんなタナーシャの料理に恐怖を抱きながら、俺は箸を持つ。覚悟は決めた。
「「いただきます」」
咲桜と共に挨拶をして、鮭の身を箸で摘む。
─うん、程よい柔らかさだ。
ここまで、感触、匂い、見た目は完璧だ。あとは味。
箸で持った鮭の身を、口の中へ。
恐る恐る噛むと、口の中に広がったのは─
「え、美味っ!」
思わずビックリして、声に出す。
鮭の身が口の中でホロホロと崩れ、塩の加減もバッチリだ。これは正直、無限に食べられる。
「美味しぃい?じゃあ抱きしめるわねぇ」
と、両手を広げたタナーシャを箸を持っていない左手で牽制。
しかし、これ程美味しいものを母さんが作れるとは。
期待して居なかっただけに、より美味しく感じる。
「タナーシャさん、覚えるの早いわねぇ。上達も早くて、ビックリしたわ。─最初に作った料理は食べれたもんじゃ無かったけど」
と、後半の言葉を濁しながらそう評価する美桜子さん。
それに対しタナーシャは、「でしょぉ」と満面の笑みを浮かべている。
と、不意に奥の扉が開いた。
「あれ、咲桜まだご飯食べてないのか?学校大丈夫か?」
「イュタベラもまだ食べてるのか。僕は今から健蔵さんと仕事に行ってくるから」
奥から出てきたのは、健蔵さんとカリオンだった。
2人は『スーツ』に身を包み、『ネクタイ』もバシッと決まっている。
─あれ?父さん、仕事行くって言った?
「え、父さん、もう仕事見つかったの?」
そう、手提げカバンを持っているスーツ姿が良く似合うカリオンに問いかける。
すると、口を開いたのはカリオンではなく健蔵さんだった。
「カリオンさんはとても頭がいいからね。即戦力として雇用することになったよ。パソコンの使い方もほんの20分で覚えたし」
と、そう語る健蔵さんの隣で、カリオンが俺に向かってピースサイン。なんか腹立つ。
と、そんな悠長にしてる場合じゃないな。
俺と咲桜は急いで朝食を済ませると、着替え、歯磨き、荷物の確認。
全てを終え、2人で玄関に立つ。
「「行ってきます!」」