第107話 ホワイトデー
一ヶ月後。
あれから俺は、スマホで日本の行事について調べ、咲桜が隠し事をしても無駄なように知識を蓄えた。
その結果、今日が先月のバレンタインデーでチョコを貰った人にお礼をする日、『ホワイトデー』なのだということを知った。
勿論咲桜は何も言わず、素知らぬ振りをしている。
そうして油断している時に、サッとホワイトデーのお返しを渡す。できるだけスマートに。
咲桜は俺が何も知らないと思っているだろうから、たいそう驚くことだろう。ふふっ、楽しみだ。
「イュタベラ、笑っとる顔キモイ」
「よし、戦争だ」
頭の中で咲桜のリアクションを想像していると、真也から罵倒された。隣で行飛も頷いている。二人まとめてかかってこい。
と、なぜこの二人が一緒にいるかと言うと、冒頭で説明したホワイトデーのお返しを一緒に買いに来たのだ。
ただし、今回買い物をするのは俺だけじゃない。行飛、そして真也も、バレンタインデーにチョコを貰っていたのである。
行飛は不特定多数の女子から、そして真也は、なんと想い人の梓から貰ったという。
しかも、現在付き合っているらしい。最近付き合いが悪かったのはそのせいか。
よって、今日は三人で仲良くキャッキャウフフしながら買い物を楽しむ。
談笑しながら街道を歩き、過ぎ行く景色をゆったりと眺める。
そうして、すっかりお馴染みになったショッピングモールへ着き、中へ入った。
バレンタインデーの時ほどではないが、店内には微かに甘い香りが漂っている。
その香りに誘われ、やってきたのは先月と同じく、チョコレートを大々的に取り扱っている店。
行飛と真也もこの店を気に入っていたようで、満場一致でこの店でホワイトデーでのお返しを買うことが決定した。
咲桜は手作りのチョコレートをくれたが、俺にはあれほど美味しく作ることが出来る自信が皆無のため、大人しく市販のものを渡すことにした。
どれがいいか、と悩みに悩んでいると、いつの間にか二人とも買い物が終わったらしく、俺が悩む様を覗いていた。
俺が視線に気づくと、二人は近づき「まだ悩みよん?」とニヤニヤしながら聞いてきた。こっちは至って真剣なのだが。
何はともあれ、買い終えた二人に、買うかどうか悩んでいる二つのチョコレートを見せる。
「こっちとこっち、どっちがいいと思う?」
その質問に、行飛と真也は顔を見合せる。
そして、二人の意見が一致し、同時に指を指す。
右手に持った物か、左手に持った物か──。
「いや、そんな凝ったやつやないで、自分で作れよ」
呆れてそう言う二人は、どちらとも俺を指さしていた。