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誰か異世界の常識を教えて!  作者: 三六九狐猫
第10章 誕生日の偶然
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第106話 あの日のこと

 

 風呂から上がり着替えを済ませると、リビングから食欲をそそる良い香りが鼻腔を掠めた。


 早速リビングに行くと、食卓には入浴済みの美桜子さん、健蔵さん、そして咲桜。


 その三人の目の前には、いつもよりも豪華な、寿司やケーキなどが所狭しとならんでいる。


 その中に加わり、咲桜の隣の席へ。


 座った直後、灰色の子猫──まさるが膝の上に乗ってきた。撫でてあげると、喉を鳴らしながら頭を腹に擦り寄せてきた。カワイイ。


 そして、メンバーが全員揃ったことを確認した美桜子さんは、手を叩いて、言った。



「みんな揃ったわね。じゃあ、改めて──サク、イュタベラくん、誕生日おめでとう!」



「おめでとう」



 美桜子さんに続いて、健蔵さんも祝福の言葉を述べる。


 俺と咲桜は、それを笑顔で受け止め、そしてお互いに見つめ合い──



「咲桜、誕生日おめでとう」



「ベラも、おめでとう」



 有り余る幸福を噛み締めながら、目の前の食事に手をつけた。











「いやぁ、美味しかった。サーモンにマグロに、イクラにタイ、そして最後の締めにイチゴのショートケーキ。どれも凄く美味しかった。カリステアじゃ、あれほどの物は作れないな」



「えー、私はいつか食べてみたいな、ベラの故郷の料理」



 未だ寒さが堪える街中で、街灯を頼りにとある場所へ向かう。


 食事を終えた俺たちは、寝転がり、暇を持て余している猫の為に遊び道具等を買ってやることにした。


 明日でも良いと言ったのだが、咲桜が今から行くと言って聞かなかった為、仕方なく今日行くことにしたのだ。


 しかし、現在の時刻は午後八時。行く道に立ち並ぶ店はどれも閉まっており、目的地は開いているのだろうかという心配がある。


 分厚いカーディガンのポケットに手を突っ込み、少しでも寒さを軽減させ、咲桜と同じ道を歩む。


 と、急に咲桜が足を止めた。何事かと咲桜の目線を追えば、そこは、懐かしいな、俺と咲桜が結ばれたあの広場だった。



「もう二ヶ月か、早いな」



「ん、そうだね。──私、今でもあの日のこと、鮮明に思い出せるよ。嬉しかったなぁ」



「それは俺だって同じだ。咲桜が泣きついて、俺の服がびしょびしょに──いてっ、ちょ、ごめんごめんって」



 あの、忘れられない思い出を脳裏に呼び起こし、懐かしむ。


 少しからかってやると、肩をすごい勢いで叩かれた。


 赤い顔で、頬を膨らませて不満げに怒る咲桜。


 その手を繋ぎ、「少し寄っていこうか」と広場の中へ。


 あの日とは違って広場にクリスマスツリーはなく、どこか物寂しさを感じる。


 あの日と同じベンチに座り、少し休憩する。



「咲桜、あのな」



 空に浮かぶ月を見ながら、話しかける。



「ん?どうしたの?」



 俺の肩に頭を預けた咲桜が、至近距離で反応する。


 人の温かみを肩に感じながら、何故か言いたくなった言葉を言う。



「好きだ」



「ふぇっ!?」



 突然のことに驚いたようで、肩に乗せた頭が勢いよく離れる。


 そして俯き、呟くように



「わ、私も、好き、です」



 顔を赤らめ、照れながらも返事をしてくれた。その姿がとても愛おしくて、思わず抱きしめる。



「ひゃっ!ちょ、誰かに見られたらどうするの!」



 そう心配する咲桜だが、ここは休日も人が来ることは少ない。誰かに見られることなどないのだ。



「大丈夫、ここ穴場なんだから来るはず──」



「いや、普通におるけど?外は寒いのにあっついなぁお前ら」



「──行飛かよっ!びっくりした…」



 いつの間にか目の前に現れた行飛が、ニヤニヤとこちらを見つめている。


 その頭を叩いて、罰として俺たちの買い物に付き合ってもらった。


 終始咲桜が赤面していたことは、家に帰ってからかったら背中を強めに叩かれた。


 しかし、その後すぐに咲桜が自室から、いつ買ったのだろうか、俺へのプレゼント──今度は本当に誕生日プレゼントを貰った。


 最高の日が終わることを心底惜しく思いながら、バレンタインデー、並びに俺と咲桜の誕生日は幕を閉じた。

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