第105話 高峰家緊急会議
前回に続き、再び──
「いや、これは流石に謝罪してもしきれないほど重大な罪を犯してしまったので、はい、ほんとに申し訳ないです」
今度は咲桜の部屋、小さなテーブルの上で、先程聞いたようなセリフを聞く。
咲桜が今どんな顔をしてるのか分からないが、多分これも先程と同じだろう。
何故分からないかって?そりゃ、恥ずかしいからに決まってるだろ。
だってあれだぞ?バレンタインのこと何も知らなくて、偶然今日が俺の誕生日で、咲桜たちには言ってなかったのに咲桜からプレゼント貰ったから、母さんたちが俺にプレゼントするよう頼んだのかな〜とか勝手に思って少し、そう少し、少しだけ、ほんの少しだけ浮ついてたら誕生日プレゼントじゃなくて知りもしないバレンタインの風習だったんだぞってどんだけ長文なんだよてか誰に言ってんだ。
取り敢えずそんな訳で、絶賛拗ねている。
机に突っ伏して、自分の腕を机と顔の間に置き、目を閉じて瞑想。
「いや、仕方ない。俺も言ってなかったし、なんなら言うつもりもなかった。まぁもう少し待ってくれ、今多分凄く顔が赤い」
「それ私もなんだけど──」
目の前で自分のラブレターを見られた咲桜が、気まずそうに言う。
そして、思い出したかのように「そうじゃん、私も──」と呟き、
「──ごめん、私もちょっと待って」
そう言ってすぐ、ぼふっとベッドに顔を埋めたような音がする。時間差凄いな。
こうして、なんとも言えない気まずい空気が室内に充満する。
そして、それから数十秒後。急にガチャリと部屋の扉が開かれる。
咲桜がこの空気に耐えられずに出ていったのかと思い、伏した頭をあげる。
が、目の前には脳裏で描いた通りの構図で咲桜がベッドに顔を埋めている。では、先の扉の音は──
「えっと──何してるの?新しい遊び?」
扉には、困惑した様子の美桜子さんが立っていた。
「猫の名前か」
「いや、ベラ切り替え早くない?」
「サクが遅いだけよ」
美桜子さん二呼ばれて、俺たちはリビングのある一階へと降りた。
そこにはソファに座って野球を見ている健蔵さん、そして、その膝で安眠している子猫がいた。
今から名前を決める。
この名付けは非常に重要だ。
人間の名付けは、その名前に必ず何かしらの意味が込められている。
俺のイュタベラは、正しくは『イュタベ・ラ』で、『イュタベ』の部分が『万能な』という意味を、『ラ』が『少年』という意味を持っており、『万能な少年』という意味が込められている。
しかしこれは、あくまでも理想であり、このように万能ではない少年がこの世に解き放たれることもある。
と、その話は置いといて、この猫だ。
日本では、猫や犬の名前は大体『ポチ』だとか、『シロ・クロ』などが多いようだが、今回それは却下だ。
誰も名付けたことの無い、素晴らしい名前を提案しよう。
「で、この猫ちゃんの名前の案、ある、」
「それなら──」
俺と咲桜(ついでといった感じて健蔵さん)を見回し、主題を投げる美桜子さん。
そしてここで俺は、待ってましたと言わんばかりに手を挙げ、脳裏に浮かんだ名を口にする。
「ヌァオゴッテニ・サパーニャ・デロはどうだろうか?」
我ながら完璧とも言える名を提案し、他三人の反応を伺う。
ちなみに、『ヌァオゴッテニ』が『奇跡の』、『サパーニャ』が『救世主』、『デロ』がそのまま、『猫』という意味だ。
猫や犬などのペットは、愛でる対象としても飼われているが、時にその動物たちは、人間を助けることがあるそう。
飼い主が歩きスマホでトラックに引かれそうなところを、吠えて気づかせたり、病気になった時にそばに寄って癒しを与えてくれたり…。
この猫にも、誰かを救って欲しいという願いを込めて付けた名前だ。
あっさり会議が終わるだろうが、まぁいい。早くケーキを食べたい。
俺の提案に、咲桜と美桜子さん、そして健蔵さんが顔を見合せ──
「えと、取り敢えずそれは絶対にないかな」
「えぇ…」
なんで???
ちなみに、猫の名前は『まさる』になった。
まさるに負けた──。
余談だが、『まさる』を感じで表すと、『優』という字なのだそう。この字は、『優れる』や『優しい』と読めるそう。そりゃそっちの方がいいわな、長ったらしくなくていいもん。
完全な敗北を味わい、本日二度目の風呂に入ったのだった。