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誰か異世界の常識を教えて!  作者: 三六九狐猫
第10章 誕生日の偶然
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第102話 小さな出会い

 

 行飛と別れた後、思いつきで咲桜に料理を振舞おうと思い、近くのスーパーマーケットに寄った。その帰宅途中。


 夕暮れの映える住宅街。その街中を、軽い足取りで歩く。


 奥に見える山に沈み行く夕日を眺めながら、さて、帰って咲桜にどうやってプレゼントを渡すかなぁ、などと考えていた。



「咲桜は俺に誕生日の事言わなかったからなぁ。いきなりプレゼント渡したら驚くだろうな──ん?」



 咲桜の反応を想像するだけで笑みが溢れる。早く家に帰ろう。


 そう思い、少し歩を速めたその時だ。


 声が、聞こえた気がした。


 それは、耳を澄まさないと聞こえない、助けを求めるかのような、か細い声だった。


 でもそれは、人が発する音ではなくて──



「この鳴き声は──子猫か?」



 微かに聞こえる、子猫のような声。


 場所は丁度横、家と家の間、今ではすっかり闇に染る細い路地。そこから確かに、鳴き声がする。



「相当弱ってるな…」



 鳴き声から、恐らく食料を求めているのだろうと推測する。


 急いで向かわなければ──






「にゃ〜…」



「やせ細ってる…それに、天井もないから寒そうだ──」



 暗い、昏い路地を行き、電柱の傍に置かれた小さなダンボール。その中には、所々裂けてボロボロになったタオルと、それを床にして横たわる、痩せこけた光沢の失った灰色の子猫が。


 息も絶え絶えで、今にも死にそうな子猫──



「可哀想に…。──咲桜に怒られるかな。でもごめん、流石に見逃せないな」



 そう呟いて、俺はその場に膝を折る。


 左右を見て、誰もいないことを確認。そして、目の前の子猫に手のひらを向け──



「──ヒール」



 この世界において、魔法を使用することは父さんたちや咲桜たちから禁じられている。それは、俺をこの世界から守るためであり、俺からこの世界を守るためでもある。


 その禁じられた手を、使う。


 だって、仕方ないじゃないか。


 助けられる命は、助けなければ──。



「──誰もいないよな?うん、いないな。あと少しだからな…」



 俺の手から、翡翠色二淡く光る魔力が、目の前の子猫を優しく包む。


 寒さで体力が限界のようだなので、疲労を回復させる。ついでに、魔力を使用する事で少しばかり熱が発生しているため、申し訳程度の暖を与えてやれる。


 が、しかし──



「──腹が、減ってるのか…」



 これはまずい。俺のこの治癒魔法は、疲労回復や、かすり傷の、手当てには効果があるが、空腹を治すことは出来ない。少しでも何か食べてくれれば、栄養を五十倍にすることが出来るのだが。どうすれば──


 頭をフルで回転させる。何か手はないのか、この小さな、儚くも尊い命を繋ぎ止める一手は無いのか。


 その時だ。ガサガサと、ビニールの音が聞こえた。


 音の元は、俺のバッグの中。


 そうだ、この中には──



「よかった、これなら子猫も食べられる」



 バッグの中、ガサガサとビニール音を響かせながら取り出したのは、チョコレート──ではなく



「野菜炒め用のキャベツと人参、買っててよかった…」



 チョコレートを猫にやると、嘔吐や下痢をしたり、震えが出たり、興奮状態になったりするらしい。


 もしも、俺が料理を咲桜に振る舞おうと考えていなかったら──この子猫は助からなかっただろう。


 子猫が食べやすいようにキャベツをちぎって口元にやると、弱々しく舌を伸ばす。


 そして、直ぐに魔法をかけて栄養を子猫に与える。


 ちぎっては口元にやり、ちぎってはやり──繰り返して、ようやく子猫の生命力が戻ってきた。だが、まだ元気だとは言えない。キャットフードを急いで買わなければ。


 キャベツでどうにかなるのか心配だったが、なんとか生命を繋いだようだ。


 その後、急いでキャットフードを購入し、子猫に与えた。



 子猫は、元気に鳴いた。




「にゃ〜!」

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