第101話 チョコの日らしい
と、いう訳で。
「行飛、今日の放課後付き合ってくれよ」
「いやめっちゃいきなりやん」
今は給食の時間が終わり、昼休み。快晴の下、グラウンドではクラスでドッヂボールという遊びをしている。
コートという、『日』の字のようなものを地面に描き、クラスの半分が四角の範囲の片方へ、もう半分は残りの範囲へそれぞれ自陣として用意する。
ボールをひとつ用意し、ジャンケンに勝った方がボールをもらい、それを相手側に投げ、それをキャッチ出来ればセーフ。当たったらその人が外に出て、ボールを持った人が相手のコートへ投げる、というシンプルな遊びだ。詳しいルールはまだあるが、詳細は関係無いので省くことにする。
その遊びをする中、俺は考えていた。
今日は咲桜の誕生日。
急いで贈り物を買わなくては。
行飛の肩に手を置き、もう片方の手の親指を立てていいねポーズをする。ウィンクが出来れば完璧なのだが、俺はしようとすると両目をつぶってしまうのでやめた。
そして、行飛に置いた手を通じてこの思いが伝わったのだろうか、呆れたようなため息を吐きながら渋々と言った感じで「しゃーないな」と了承してくれた。
が、直ぐに俺の背後を指差し──
「はい、アウト──」
「ほっ──と。ん?なんだって?」
「──相変わらず人間離れしてんなぁ」
背後に迫るボールを片手で天に弾き、自由落下したそれを優しく包み込む。
その様子を見ていた行飛──もとい、ドッヂボールの参加者全員が呆然とその様子を見つめ、先程の行飛と同じようにため息を吐いた。
ただ一人、咲桜だけは、微笑んでいた。
そして、放課後。
咲桜とは別々に帰り、俺は外出の支度を済ませる。
そしてスマホで行飛と連絡を取り合い、約束の場所、ショッピングモールへと向かった。
「ん、イュタベラおせぇぞ。言い出しっぺははよ来いや」
「なぁ、道中の信号五つ全てに引っ掛かる確率ってどれくらいだ?」
ショッピングモールに着くと、既に待っていた行飛から叱責を受けた。仕方ないじゃないか。信号全部引っ掛かったんだから。
などと談笑(?)しつつ、俺たちは早速店内へ。
真也も誘ったのだが、何故か今日一日肩を落としっぱなしで、心ここに在らずと言った風だった。体調不良だろうか、早く治るといいが。
そして、店内に入ると──
「なんか、物凄く甘い匂いが充満してるな。これは──チョコレートか?」
店内を埋め尽くすチョコレートの香り。周りを見渡せば、どこもかしこもチョコレート、チョコレート、チョコレート。
普段はこんなに大仰に宣伝していないのだが、どうしたのだろうか。まさか在庫があまりに余っていて、苦肉の策として──?
「てのは、流石にないよな、ははっ」
「え、何いきなり笑いよん?こわっ」
隣で歩く高身長男子に引かれながらも、俺はプレゼントの内容を考える。本は下校途中に本屋に寄って、予約していた『ゆめいち』の新刊を買った。追加でヒロインのアクリルスタンドが着いてきたので、これもあげることにする。
ただ、これだけでは物足りない気がする。あとひとつくらい、何か買ってあげたいのだが──
と悩むより、行飛に相談する方が早いということに気がついた。
が、それより先に行飛が俺に話しかけてきた。
「いやぁ、そういえばやけど、やっと咲桜とイュタベラくっついたんかぁ。あ、今日チョコ貰った?」
「本当にそういえばだな。そしてなんでチョコなんだ?さっきからチョコ推しが始まっているのか?俺は乗り遅れたのか?」
謎のチョコ推しに困惑しつつ、チョコは貰ってないと言うと、心底驚いたような表情で俺を見つめてきた。──その可哀想な人を見る目をやめろ。虚しくなる。
「で、なんでチョコなんだ?今日はチョコの日か?ん?」
「ま、まぁ、そうかな...?」
若干キレ気味で問いかけると、苦笑いしつつ行飛が答える。そうか、今日はチョコの日か。
「わかった、チョコ買ってくるから待ってろ。すぐ戻る」
そう言い残して、近くのチョコレートを売っている店へ入る。
「あ、ちょ、今日は女子が──もういいや」
行飛が何か言っていたような気がするが、無事にチョコレートを買って、今日のショッピングは幕を閉じた。