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誰か異世界の常識を教えて!  作者: 三六九狐猫
第九章 年末は家族で
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第99話 蛇足:衝撃の事実

 

「ベラって、向こうではいつもあんな感じだったの?ふふっ楽しかったね」



 皆が帰った後、俺の部屋に来た咲桜はそんなことを聞いてきた。


 屈託のない笑みでこちらを見るその姿は美しく、そして可愛い。次に可愛い。最後に可愛い。


 ベッドに腰掛け、扉の隣に飾った、咲桜から貰った栞を眺めながら談笑する。


 父さんたちが来ると、物理的にも精神的にも疲れる。


 こうしてゆっくりと話す時間を設けることで、溜まった疲労を回復させているのだ。


 そして何より、咲桜の隣に身を置くことで、これ以上ないほどに落ち着きを取り戻すことが出来る。


 漫画でよく、『君のそばにいると落ち着くの』だとか『あなたがそばに入れば、それだけで安心出来る』だとか言っていたが、その気持ちが今では分かる。自分でも驚く程に、精神が安定する。


 やがて心身ともにリラックスし、もう少しだけ寝る前に駄弁ろうということになった。


 もう日付が変わっているのだが、咲桜が言うんだ。仕方ない。付き合ってやろうか。



「そういえば、シャランスティさんが笑いながら言ってたんだけど──」



「ん?なんだ?──て、え、シャランスティが…?あのシャランスティがか?それ本当か…?」



「凄い疑ってくるね…」



 俺が驚くのも無理はない。シャランスティは普段、一切表情を変えない。雰囲気で何となく感情は読み取れるが、本当に一切表情が変わらないのだ。


 ましてや、笑うなんて。俺の前では、少し怒って見せたり、落ち込んでみせたりした事は多少あったが、笑ったり喜びを表現したことは一度たりともなかった。


 表情筋が死んでるのかと思っていたが、まだ笑えたのか──



「聞こえてますよ、イュタベラ様」



 そんな声が聞こえる気がして、急いで思考を止める。


 そうだ、咲桜の話の続き。シャランスティが笑いながら言うことってなんだろうか?



「シャランスティさんも、結婚決まったらしいね。ヘレナさんはワイガーさんと結婚するし、私は──その──」



「え!?あ、あのシャランスティが、けけ、け、結婚!?嘘だろ、恋愛に対する感情があったのか──」



「本人の前で言ったら殺されそうだね」



 咲桜の語尾が小さくなり、顔がリンゴのように赤く火照るが、お構い無し。


 あのシャランスティが結婚──か。シャランスティはあんな感じで何考えてるか分からないから、てっきりずっと男が寄り付かず独身のままだと──。


 シャランスティ、見た目は良いし、いざ話してみれば性格も悪くは無いんだが、初見であの無表情を見たら機嫌が悪いのかと勘違いしてしまうだろう。


 そんなシャランスティを好きになるとは、一体誰なんだ──



「あ、相手は誰なんだ?」



 思考を整理し、一番大事なことを聞く。シャランスティは俺には相手を教えないだろうが、咲桜には教えていると思う。


 ああ見えてシャランスティは、咲桜の事をとても気に入っている。


 シャランスティが自分の話題を話すことなど殆ど無いのに、咲桜達には話しているというこの事実が何よりの証拠だ。


 何故か微妙に緊張しながら、咲桜の返答を待つ。


 隣に座るパジャマ姿の咲桜は、「それがね〜」とこちらに顔をずいっと近づけ──



「ミロット君だって。お似合いだと思わない?」



「──あぁ、そうだな──」



 そういえば、シャランスティはミロットのファンクラブ会長の疑惑があったな。この話を聞く限り、本当に会長だろう。


 にしても、ミロットと、か。気が早すぎるんじゃないだろうか。


 ミロットはまだ幼い子供だ。結婚はもう少し先の話だろう。


 というか──あれ?



「シャランスティって、今何歳なんだ──?」



 独り、脳裏を過った疑問を声に出す。


 その疑問に答える人は──いない。


 隣を見ると、咲桜が首を前後に揺らしながら転寝をしている。


 肩を叩いて起こしてやると、寝ぼけているのか俺のベッドに横になり、俺の腕を引いた。


 急な事に対応出来ず、ベッドに倒れる。


 枕を共有する形になり、咲桜の息遣いがすぐ近くで聞こえる。



「ん〜…ベラ、いっぱい──幸せ───」



「いやどんな夢だよ」



 ツッコミは闇の中に溶け込んで、シャランスティの結婚という衝撃を残し、今日という日は終わりを迎えた。

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