第9話 父の決断
突然の提案に、カリオンは動揺を隠しきれていなかった。
「な、何を言うかと思えば、そのような…。いやはや、頭の隅にもない考えでした」
そう苦笑するカリオン。しかし、カリオンは続けて、
「しかし、貴方達家族に迷惑をかける羽目になりませんか?他人に迷惑をかけるほど無粋なことはしたくは無いのですが…」
と、申し訳なさそうに言った。
以前、咲桜も俺に同じような提案を持ちかけてきた。
しかし、それは俺1人であったから、提案をしただけで、俺ら家族全員を引き取るのは、相当苦労するはずだ。
しかし、咲桜の父は「いえいえ」と否定し、
「僕が持ちかけているんで、迷惑なんてなりませんよ。それに─」
と、1度俺の方を向くと、再びカリオンに向き直し、
「イュタベラくんはもう、他人では無く、家族同然だと思っていますから」
そう、恥ずかしげもなく言った咲桜の父は、「迷惑でしょうか?」とカリオンに発言を促す。
対するカリオンは、
「迷惑ではありませんが…宜しいのですか?僕もタナーシャも、無一文ですし知識も無いですし…」
「大丈夫です。イュタベラくんがいます。彼は相当吸収が早いのか、今では買い物もスムーズに済ませられますし、何より知識が豊富です。」
「それに」と、一旦一呼吸置くと、
「こちらに来れば、1ヶ月は戻れないんでしょう?何処で何をするつもりですか?」
と、微笑みながらカリオンに告げる。
確かに、父さんは異世界転移の魔法を使うと、1ヶ月は魔法が使えないと言っていた。
そこを突かれ、カリオンは「それを言われては…」と、顎に手を置いて考え込む。
数十秒の沈黙の後、カリオンは顔を上げ、咲桜の父と目を合わせた。
「痛いところを突かれましたね。では、お世話になっても宜しいですか?あ、家事などは出来る限り全てを手伝いますので」
と、咲桜の父の提案を承諾した。
俺は、まだ日本に居て良いのだ。
「はい、喜んで。カリオンさん」
と、終結した会話に咲桜の父が握手を求める。
それに倣い、カリオンも手を出した。
「こちらこそ。ええと…」
「高峯健蔵です。よろしくお願いしますね」
そう言い、ギュッと握手を交わした。
と、そこで、キッチンで色々見ていたタナーシャと、咲桜の母が戻って来た。
「あれぇ、リオくん何してるのぉ?握手?私もぉ」
「お父さん、何やってるの?」
と、握手する2人に、それぞれの反応を見せる。
すると、タナーシャは咲桜の母に手を差し出すと、
「はい、美桜子さぁん、私たちもぉ」
と、間延びした声で美桜子さんに笑いかけるタナーシャ。
それを美桜子さんはさらっとスルーすると、健蔵さんに近寄り、
「お父さん、これどういう状況?」
と、意味のわからない現状について問いかける。
「あぁ、今日からカリステア家の方たちが、家に泊まるようになった」
と、先程の結論を話す健蔵さん。
それに対し、美桜子さんは、「あら、大家族ね」と少しも不満な顔をせずに、じゃあ今日は特別美味しいもの作らなきゃ、と買い出しに出かけた。
その様子を見ながら、俺は改めて、この家族と出会えて良かったな、と思うのであった。