6、帰宅
「うえぇええ、お父さん死んじゃうぅ」
「やめてよ、思い出しちゃうから……うぐっ」
こんなに泣くお母さん初めて見た。
癌という事実が覆らないものだと、思い知らされた。
「……あんた、今日帰るの?」
「当たり前」
ひとしきり泣いた後夕飯の買い物をして、お母さんと実家に帰った。
各々の車に乗って帰ったんだけど、運転しながら涙が溢れてくるものだから「これは本当に運転に支障が出るなぁ」と思いながら、溢れてとまらない涙を拭った。
実家に帰ってもまだ、父は家にいなかった。
「調子が良い時は仕事場に顔を出してるの」
仕事はやめていないけど、ほとんど行ってはいないらしい。
今日は珍しく調子が良かったみたい。
夕方近くになっても帰ってこない。
ちなみに、癌になった人でも仕事を続ける人が割と多いのだとか。
しばらく待っていると、ガチャっと玄関の戸が開く音がした。
お父さん帰ってきた?!と思ったけど、お世話になっている人が来た様子。
お客さんは「大変だなぁ」となんだかんだ話をして、それを母はうんうんと相槌を打って静かに聞く。
その人は最後にスッと少しだけ厚みのある封筒を置いていった。
帰ってから母は、
「半分くらいは何かでお返ししなきゃ」
「えー、これからたくさんそういうやりとりがあるって考えると、なんというか結構面倒くさいんだね」
「そうだよー。だから、まだ会社の人しか言ってない」
「すぐ広まるやつ」
「そうなんだけどね」
色々と付き合いでも大変みたいだった。
今は……どうか、2人の時間を大切にしてほしいと思う。
後から聞いた話だけど、お母さんが検査結果をすぐに教えてくれなかったのは心の準備に時間がかかったかららしい。
「今日ねー職場の上司に伝えたんだけど、めっちゃ泣いちゃってー。お父さんがいる時はそうでもないけどさ、人に話す時って思い出して泣けてきちゃうね」
「そうそう。だからね、〇〇(私の名前)に言えるようになるまで1週間かかったんだよ」
「車の運転できなくなるからっていう理由、嘘じゃん」
「あはは、そうだよ」