4、溢れたもの
「〇〇病院に行ってね、そう言われてきたの。で、今度東京にセカンドオピニオンで別の大きな病院に行ってくる」
「…………!」
鈍器で殴られたみたいな感覚。
キャリーバックが必要っていうのはそういう……!?
「え、いつわかったの?!」
「先週の……火曜日だったかしら。あんたたちが結婚式から帰って次の日」
私と旦那は義兄の結婚式で出かけていたのだ。
その次の日?
もう1週間も前じゃん!!
「なんでもっと早く教えてくれなかったの?」
「運転がおそろかになったら……危ないから……」
「それ、意味わかんないから」
人の心配してる場合じゃないよ……!
そこで母の声色が突然変わった。
「これからだったのに……。やっと一緒にゆっくり過ごせると思ってたのに……。寂しくなる……。私1人になっちゃう……!!あと30年、どうやって生きればいいの……」
まるで母が母じゃないみたいだった。
初めて見る母の姿。
いつもあんなに明るいお母さんが、こんなに……。
母は顔をくしゃくしゃにして大粒の涙をこぼしていた。
そこでやっと、事態の深刻さに気付いた。
気付いてしまった。
「お父さん、、死んじゃうの?」
気づいたら前が何かで覆われていた。
熱くて止め処なく流れてくる。
止まらない止まらない止まらない。
お父さん、、。
あのお父さんが?
癌?
「ばか、じゃん」
目の奥が熱くて、その熱いものは止まらなくて。
ティッシュで押さえつけても間に合いそうになくて。
何度も何度も自分の中で反芻する。
お父さんが、癌……。
まだ飲み込めない。
飲み込みたくない。
あぁ、余命って……?
「ステージは……?」
癌には症状によってステージがあるって聞いたことがある。お父さんのステージはどれくらい……?
「ステージ4……」
「末期じゃん」
まじか。
「もう……1年も生きられないってこと?」
「そう、かな………」
「ばかじゃん」
なんで私は……こんな言葉しか、出ないのだろう。
仕事が終わってからすぐに実家へ帰省。
評価下さった方、ありがとうございました。
お父さんに「お父さんのこと忘れないように、小説書いてる」と伝えたら、「泣いちゃうよ?」と冗談っぽく言っていました。
《父の容体》(11月7日現在)
ソファにもたれかかり、だるそう。
聞くと、背中からお腹にかけて突っ張るように痛みがあるとのこと。
10段階で7くらいの痛み。
食欲は変わらずなく、痛くて食べられないことが殆ど。
食べられるときに少量食べるようにしているそう(母談)。